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(協同の実践 「生活協同組合研究」誌原稿)
配達弁当で安否確認
―生活協同組合・沖縄県高齢者協同組合の配食サービスー
(財)生協総合研究所 研究員 西村一郎
・ 各地で高齢者生協が
あまり知られていないが、全国で34の都道府県に高齢者協同組合が設立され、そのうち26が生協法人をとっている。消費生活協同組合法に基づき「福祉を主たる事業とした生協」である。
この全国組織である日本高齢者生活協同組合連合会では、ホームページを使って以下のように目的を説明している。
「高齢者協同組合は、『寝たきりにならない、しない』『元気な高齢者がもっと元気に』を共通の目標として、仕事・福祉・生きがいの3つを活動の柱にしています。介護保険制度のスタートにあわせ、労働者協同組合と共に地域福祉事業所づくりを進め、高齢者の社会参加と地域福祉の充実を結んで取り組んでいます」
この趣旨に沿って、各地で多様な活動が展開されている。その一つが、特に手足の不自由な高齢者にとって大きな問題となっている食事のサービスである。各地の高齢者協同組合で配食事業に取り組んでいる。その中でも一番実績を上げている沖縄県を連合会から紹介してもらい、現地を訪ねた。
・ 配食サービスセンター「配彩(はいさい)」を訪ね
1月の初めに、沖縄の那覇に入る。空港からは、昨年の末にできたばかりのモノレールに乗って、「市民病院前」駅を目指す。窓からは町並みを一望できる。空港から国際通り付近は以前のままの風景であったが、その先の途中は大きく変化していた。以前は米軍の基地跡で、草が茂るなどしていた広大な場所が、すっかり整地が進み開発の建築ラッシュであった。
小さなモノレールの駅を降り、電話で教えてもらった方向に歩く。冬だというのに南国の陽射しがきつく、上着を脱ぐ。赤い瓦に白のシックイが映える沖縄独特の屋根の民家が続き、門や屋根に魔除けのシーサーがいくつか見える。
10分ほどで、目指す配食サービスセンター「配彩」の看板を見つける。小さな建物の1階で、道に面した手前に調理や配膳する部屋があり、奥が事務所となっていた。
・ 沖縄に高齢者協同組合を
まずは佐藤康浩専務理事から、発足のいきさつや活動の概要などについて事務所で聞かせてもらった。
「沖縄の高齢者協同組合は、福祉を主な事業とする生協として、1995年の9月に全国で2番目に設立となりました。当初は地域にまず知らせることだと考えて、本島内の33自治体を訪問し、私たちの理念や方針を伝え、協力をお願いしたものです。反応は良かったのですが、事業にはつながりませんでした。
やはり小さくても実績を作らないと話が進まないことがわかり、那覇市のヘルパー養成講座と、厚生労働省の生活支援事業を受け、高齢者向けの宅配給食事業に取り組みました」
そう言った佐藤さんは、事業案内のカラー刷りのリーフレットを見せてくれた。そこの表紙には、「生活・福祉の総合サービス発信地」の下に、「わたしたちの合言葉」として次の4点が記載されている。
1働けるまでは働きチャーガンジュー(いつも元気 )
2寝たきりにならない しない高福祉
3みんなして介護しようよ お年より
4君の知恵 あなたの技能で仕事おこし
さらに以下の配食三原則もあった。
1安否確認を必ず行う
2利用者の健康を考えたカロリーで病人食にも対応します
3地元の安心安全な食材を使用します
配食の活動を開始したのは1997年2月であった。1食250円で那覇市における配食サービスを開始した。そのサービスセンター「配彩」は、カロリー計算をした薄味の高齢者向け・安否確認・地元の旬の食材を使用することが特徴である。
マスコミの報道もあり、すぐ1日に100食となった。開始後半年で1食を450円に値上げしたが、利用者は減ることなく順調に増え、こうした実績もあり1998年6月からは、那覇市からの委託弁当も作成して配達している。
その後、サービス区域を隣の浦添市にも広げて食数は300をこえるまでになった。またこのような実績が他の自治体でも評価され、現在は以下のような規模になり、日曜以外で年間を通して昼と夕方の弁当を配達している。
・給食センター:那覇、名護、恩納
・サービス実施地区:那覇市、浦添市、宜野湾市、名護市、今帰仁村、本部町、恩納村、大宜味村、東村
・市町村委託:那覇市、名護市、恩納村、東村
こうしたなかで、1日の食数は沖縄全体で630食あり、そのうち那覇市で400食を毎日賄っている。
・ 食のこだわり
好評の配食弁当の中身については、担当している栄養士の与那覇(よなは)初美さんから説明を受けた。
「沖縄県人の寿命はご存知のように、男性が26位に低下したとはいえ、女性は全国一の長寿県です。その長寿を支えているのは、暖かい気候や、ゆいまーるという助け合いの精神に代表される人間関係もあるし、何よりも大切なのは食事です。例えば食塩の摂取は、全国で一番少なくて高血圧や胃がんの予防にも役立っているといわれています。私たちは、旬の素材を大切にする伝統食の良さにこだわっています」
実際に「配彩」が食事でこだわる内容は、利用者に配布しているチラシなどに以下のような項目で明記している。
1、 良質の蛋白質(肉、魚、豆腐)をほど良く食べる。
2、 野菜を多く食べる。
3、 海藻類(昆布、ワカメなど)をよく食べる。
4、 甘い物(砂糖類)の摂取をできる限り控える。
5、 食塩の摂取をできる限り控える。
6、 カルシュウム(小魚、牛乳)をよくとる。
沖縄の庶民が身近にある旬の食材を使って伝統的に食べてきた、チャンプル料理をイメージすればよいのだろう。
この考えに沿って、2004年1月前期の献立表は次のようになっていた。
1/1(元旦) 押し寿司、お雑煮、煮付けと紅白カマボコ、錦卵と天ぷら、田芋田楽、菊花大根、フルーツ
2(金) 古代米、中味汁、ラフテーと煮物、野菜チャンプルー、キャベツの梅肉和え、田作り、黒豆、フルーツ
3(土) 栗おこわ、イナムルチ、鯛の甘露煮、炒り鶏、三色生酢、ほうれん草の磯巻き、フルーツ
5(月) グリンピースごはん すまし汁、豚肉の生姜焼き、かに棒とモズクの天ぷら、南瓜煮、ヌタ和え、フルーツ
6(火) ごはん、肉汁、千草焼き、野菜炒め、もやしのピーナツ和え、フルーツヨーグルト、餃子
7(水) 七草ジューシー、ぜんざい、グルクンの香り焼き、パパイヤ炒め物、酢の物、漬け物、フルーツ
8(木) 麦ごはん、味噌汁、酢鶏、蒸しシューマイ、切干大根イチリー、ほうれん草のお浸し、
乳酸菌飲料、フルーツ
9(金) ごはん、味噌汁、豆腐の肉団子蒸し、金平ゴボウ、田芋の揚煮、ミミガーの和え物、フルーツ
10(土) ごはん、ビーフシチュー、シャケとナスのグラタン、サラダ、ビーフンソテー、焼きリンゴ
12(月) 紅芋ごはん、すまし汁、メルルーサのピーナツ衣揚げ、野菜炒め、大根葉の香味和え、茸とアーサの佃煮、フルーツ
13(火) ごはん、味噌汁、肉巻き、焼きうどん、ふだん草の和え物、生り節の味噌炒め、フルーツ
14(水) ごはん、だいご汁、竹前煮、かき揚げ、三つ葉の卵とじ、サラダ、フルーツ
15(木)古代米、沖縄そば、焼き魚、煮物、白和え、フルーツ
喜んで美味しく食べてもらうため、いろいろと工夫していることがよくわかる。
・ 運営
厨房で配達弁当用の調理を毎日する人や、出来上がったお弁当を要望に応じて昼と夕方に車で届ける配達員もいれば、事務局員の各役割を担った総勢20名が働いている。時給は605円と決して高くはない。金銭面よりも、働く内容に魅力を感じて頑張っている人たちである。
配食を利用しているのは、那覇市であれば組合員の400人である。誰でも希望して5000円の出資金を出せば組合員になることができる。調理室で作っている弁当は、沖縄県高齢者協同組合のものだけでなく、価格は高くなるが、より大きな弁当箱に入った那覇市から委託されたものもある。
さらに内容も、利用者に応じて普通食の他に透析食や糖尿食があり、普通食でもご飯の大盛りがあれば、歯の不自由な人のためきざみ食とミキサー食もある。このため自分の体調などに応じて、注文する弁当の種類を決めることができる。
こうした多種多様な弁当を、同じ容器で毎回間違えることなく届けるために、色別のカードを弁当のフタにはるなどの工夫をしている。
できあがった各お弁当と保温容器に入った汁物を運搬用のケースにいれ、男性1人と女性7人が配達する。
ところでお弁当の価格は500円で、きざみ食やミキサー食は50円増しとなる。また那覇市からの委託弁当は900円で、但し、2004年4月から600円と700円となる。
調理室では、朝早くから回転釜やフライヤーなどを使い、その日のメニュー表に沿って係りの女性たちが調理する。それぞれが慣れた手つきで、次々と仕上げていく。
できたそれぞれの料理は、配達専用の弁当容器にセットする。糖尿病用やきざみ食といった特別のメニューは、個人の名前を書いた特別のカードを容器のフタに付けて判別できるようにしてある。
調理の係りの人たちがセットしたお弁当や汁を、申込者に届けるためコース別に両手で抱えるコンテナに入れるのは、女性7名と男性1名の配達の担当者たちである。
その男性の車に同乗させてもらい、昼食の弁当配達を一緒にまわった。
・ 命綱の弁当を届けて
配彩の配達担当になってから、7年もの間、一度も休むことなく弁当を届けている阿嘉祐興(あか ゆうこう)さんである。濃いブルーのエプロンを掛け、71歳とのことだがテキパキと作業をこなす。これから配達するコースに沿って、手元の一覧表とそれぞれの弁当を確認し、取り出す順番にコンテナへ並べていく。
準備が終わると、「配彩」の前の道路に停めてある自分の軽自動車に積み込んで出発である。他の配達の人たちも、それぞれの軽自動車で元気に出掛けた。
途中で運転している阿嘉さんから話を聞く。まずは高齢者協同組合に入ったいきさつである。
「基地の中の消防士を43年間勤め、61歳で停年になりました。3年ほど何もしないでいたら、体がおかしくなりましてね。役所で紹介を受けて高齢者生協を知り、それからもう7年もここで配達をしています。おかげさまで体調は良くなりましたよ」
長年、消防士として活躍されていたから、70歳をこえてもキビキビした動作をすることができるのだろう。消防士も高齢者のための弁当の配達も、責任の重い仕事である。消防士のときに、火事や救急で人命を助けたことは何回もある。弁当を持っていった一人住まいの相手が、呼んでも返事がないのでドアを開けると、ブルブル震えながら倒れていたこともあった。すぐに救急車を手配し、病院まで付き添ったこともある。
「相手の安否確認には一番気を付けていますね。高齢者の一人暮らしでは、外に出て他人と顔をあわせることがあまりありません。訪ねてくる人は、ヘルパーさんか私たちのような配食の者ということも少なくないのです。だから、弁当を玄関に置いてくるのでなく、必ず本人に手渡して、相手の顔を見て健康状態を確認するようにしているのです」
高齢者の中には、高血圧や糖尿の病気を持っている人も多い。このため、急に体調を崩し、時には命に関わることもあるので、毎日の弁当配達時の安否確認は大きな役目を果たしている。そこで阿嘉さんは、弁当ができていれば、交通渋滞や台風に巻き込まれても、必ず注文した相手に届けている。
「交通渋滞になれば、別の裏道を使って届けます。台風が来て、調理をする人が出勤できなければ弁当を作ることはできません。そのときは配達を断念して、家から電話して届ける相手に事情を伝え、非常食でも食べて欲しいとお願いします。とにかくお弁当を届けないと、相手の高齢者は絶食となりますので、どんなことがあってもきちんと届けるようにしていますよ」
白髪でにこやかに笑っている阿嘉さんの使命感はすごい。大型の台風が接近し、路線バスが止まったときも阿嘉さんは、雨具を身に付けて配達したことがある。ある家では、門の扉を閉めていたため、やむなく塀を越えて入ったこともあった。台風で弁当が届かないものとあきらめていた相手から、大変に感謝されたが、同時にどこから入ってきたのかとたずねられたこともあるそうだ。
配達に支障がないようにと阿嘉さんは、日ごろから最善の努力をしている。
「一番気を付けるのは、自分の健康ですね。風邪でも引くと、運転ができなくなって弁当の配達をすることができなくなりますから。第二は、車の整備です。途中で故障でもすると、時間までに届けることができなくなって迷惑をかけてしまいます。そして安全運転です。不注意で事故でも起こすと、これまた弁当を届けることができなくなるので問題ですから」
那覇市の路地裏に入ると、軽自動車がやっと1台通ることのできる狭い道路が、迷路のように走っている場所があった。車や人などに注意して運転していることが、助手席にいるとよくわかる。
汁の入った容器には、中味をこぼさずにかつ保温のためフタをしてある。このフタを、指の力が低下した高齢者は開けるために苦労する。そこで阿嘉さんは、渡す直前に少しフタをゆるめていた。
・ 利用者の声
弁当を利用している高齢者の多くは一人住まいである。配達を待っていて、親しそうに阿嘉さんへ話し掛けてくる人が少なくない。外に出る機会がほとんどなくて、話しをする相手を求めている。一人暮らしで、高額の電話代を払っている人もいるとの話は、高齢者の実態を知ればうなずくことができる。弁当を受け取った何人かは、阿嘉さんに「上がっていきませんか」と誘っていた。しかし、まだ配達をしなければならない弁当がいくつもあり、ていねいに断っていた。
ある食の細い女性は、昨日のお昼の弁当を、昼と夜とさらに今朝の3回に分けて食べたと話していた。調理してから長時間後に食べることは、食中毒の発生する危険があって問題があり、阿嘉さんは危ないから止めてほしいと伝えていた。
通りに面した小さな食堂にも弁当を届けた。そこではいくつかの定食を出しているが、脂っこいメニューが多くて高齢の親には適さないので、娘さんがいつも配食サービスを頼んでいるとのことであった。
沖縄県高齢者生協では、配食したときの状況を各自が記録して事例集を作成し、全体で共有化するようにしている。その中の一例である。
「年老いた母と、障害者の若い二人暮らし家庭の食の悩みを解決したのは“配彩”でした。これまで親子ふたりで弁当を取っていたのに、何時からかわかりませんが、子ひとりの一個の配達になっていました。そう言えば母親は、一寸見た目では丈夫そうだったナー。止めたのかなと思いながら届けましたら、洗濯していた息子が、『母は、また入院してしまいましたので』とのことでした。『今は、この弁当に大変助けられています。これからもよろしく』と知的障害の青年は、どこか寂しそうに笑ってこたえてくれました」
「これといって病気があるわけではないが、妻が老人施設へ入所し、長男がいまだに嫁を探そうともせず、タンメー(おじいさん)ひとり家に残されて辛いよと、誰に言うともなしに語る明治31年生まれで91歳のお年寄り。この世帯に対応する高齢者福祉に何が有るのか分からないが、この高齢者に生きがいや暮らしの楽しみを願わずにはおれません。年金暮らしだから1日に2食はとることができない。『長男は、1日に2食取ってというが、お金が心配で昼だけにしています』とキッパリ言います」
「奥さんが入院され、しばらくは自炊やその他でしのいできたが、自分自身の持病(糖尿病)の治療疲れで、思い余って宅配の弁当を頼むことにしました。子どもたちは全員県外なのです。『老人世帯のわびしさも妻がいて、一応お金の心配もなく愛車を持てば人並みの幸せみたいに思ってきましたが、年齢と病気には人間勝てませんネ』と大正15年生まれで72歳のご主人は、やせた顔に明るい笑いを見せてくれました。妻が退院したら2人分をお願いしますと話していました。この家庭は、宅配申し込み書の『緊急時の連絡先』は県内に身内無しとなっています」
沖縄県高齢者生協が、生協の理念を大切にしつつ、命綱としての配食サービスをしていることがよくわかる。
連絡先 生活協同組合・沖縄高齢者協同組合
住所 沖縄県那覇市首里末吉町3-15-1コープサンアンクル101
電話 098-884-8335
