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子どもの食生活は今 2004年8月30日
(財)生協総合研究所 研究員 西村 一郎
*論文要旨
現代の子どもの食生活を考えるとき、お皿やコップの中だけを注意していても問題の本質は分からない。変革の主体である子どもに寄り添って、何を食べているのかと同時に、どのような食べ方をしているのか、もしくは希望しているのかにも注目することが大切である。子どもの目線で問題を浮き彫りにし、改善のために何が求められているのか探る。
*西村一郎(にしむら いちろう)のプロフィール
1949年高知県生まれ。子どもの食生活を中心に
調査研究。『子どもの孤食』(岩波ブックレット)、
『子どもが食べたいものなあに?』(コープ出版)、
『子どもの脳力は食べ方で決まる』(三水社)、他
・はじめに
食事を含めて子どものくらしが、この数十年ほどで大きく変化している。少子化のなかで個別の子ども用の部屋を与える個室化がすすみ、食事では個人個人の好みや都合で食べる個食となり、もしくは一人で食べる孤食の傾向がすすんできた。居間で家族と見ていたテレビが部屋別に設置され、また玄関付近にあった固定電話は、子どもでも各自が別々に持つ携帯電話に替わるように個電化している。こうして子どもも含めた一人ひとりが、家庭内においてバラバラにくらすシングルス・ライフを強めつつある。
ところで子どもの変化を表現して、以前から「さんま」(時間、仲間、空間)の減少が指摘されてきた。1992年の調査では、タイマーをテーブルにおいて朝食をとっている子どもがいて驚いた。学校の勉強だけでなく、塾や稽古事やスポーツクラブが忙しく、土日を含めて子どもが自由に使うことのできる時間は大きく減っている。
一緒に外で遊ぶ仲間の数も減少し、指の反射神経だけを使い部屋の中で遊ぶテレビゲームが増えている。また、子どもたちが体を使って楽しむことのできる身近な広場や野山も減少し、自然に触れることが少なくなっている。
こうした「さんま」の減少は、子どもの自由で伸び伸びした遊びを制限し、ストレスを高める要因の一つにもなっている。さらには増えつづける親の離婚や過労死、自殺、失業、収入減による影響なども、子どものくらしにさまざまな影響を与えている。「さんま」の減少する1つの要因となっている社会のしわ寄せが、社会病理として子どもの食や健康にも影を落としている。
学校における子どもの変化も注目に値する。学習指導要領が89年に改訂となり、道徳教育の強化や国歌と国旗の指導徹底や生活科が強調され、新学力観として、子どもが自ら考え主体的に判断し、表現するとか行動できる資質や能力の育成を重視し、96年の中教審答申では「生きる力」の重視を打ち出した。
しかし、こうした方針のねらいに反し、いわゆる不登校生が10年前に比べて約2倍に増加しているし、97年ごろから学級崩壊が話題になり、あわせて子どもによるいじめや暴力行為は後を絶たない。
このような子どもの食生活の実態を直視し、改善につなぐヒントを得ることを目的に、1992年(全国12ヵ所 小学5年生の1453人)と2002年(全国11ヵ所 小学5,6年生の1552人)に生協組合員への手渡しと、承諾を得た学校経由で全国調査を実施した。1992年は日本生協連、2002年は生協総合研究所が実施した。
子どもの食事場面や心理状態を知るため食卓風景を書いてもらい、食事や健康に関するいくつものデーターを分析し、かつ10年まえの調査と比較した。大人の目線だけでなく子どもの目線で考えることも大切にし、食事の楽しさや心が通い合うコミュニケーションも重視した。
たくさんのデーターの分析や評価をふまえ、子どもの食生活改善のために何が求められているのか考えてみたい。
・子どもの食卓風景から見えることは
子どもたちに食卓の風景を描いてもらった。心理学の1つの手法である動的家族画で、食事や家族に対する子どもの気持ちを推測することができる。
図1:楽しい食卓風景
画面いっぱいに表情や会話などのある安定した風景である。コミュニケーションがとれて、食欲のある状態で家族そろって楽しく食事をしている様子がわかる。どこの地域における調査でも一番多い子どもたちが、こうした表情や動きのある絵を描いている。
ただし、このような楽しい食事風景を描いているからといって、全てをそのまま評価できるわけではない。子どもの中には、ときとして現実と逆のことを願望として絵にすることがある。
図2:手がない人物
テーブルを囲んでいる家族の顔は描いてあるが、誰も手が出ていない。その顔も図1と比較すると表情が乏しい。食欲がなく、食べる意欲に欠けるケースがある。
図3:人物なし
箸やたくさんの食べ物は並んでいるが、どこにも人物の姿は見えない。子どもの関心が自分や家族よりもテーブルの上に集まり、「これを食べなさい」という強制が働いていると読み取ることができる。
「大きくなるためには、全部食べないとダメよ」とか、「残すと頭が良くならない」と言われて、親からの強迫概念が子どもに対して働いた結果であろう。
図4:子どもの萎縮
目を吊り上げたお父さんを大きく描き、逆に子どもたちはお皿よりも小さく反対側にまとめて描いてある。学校の成績か食事の作法について、父親から激しく注意されているのであろうか。その内容までは不明だが、子どもはかなりおびえて萎縮している。
図5:児童虐待
本人の目の前で、母親から妹が勢いよくたたかれて倒れそうになっている。日本においても関心が高まりつつある児童虐待の1つとみることができる。児童虐待が日本以上に深刻化しているアメリカなどでは、虐待を受けた子どもが、不安的な精神状態から拒食症や過食症になることが報告されている。
いくらテーブルの上に好物の料理があったにしても、これでは口に入れて美味しく味わうことはできないだろう。感性の鋭い子どもであればなおさらである。楽しく食事してリフレッシュするのでなく、逆に過剰なストレスをためてしまう。
図6:父親が新聞を広げて
父親は新聞を広げてテーブルの前に座り、母親は温かい状態で家族に食べてもらおうと、台所の前に立って料理を運んでいる。こうした場面の親に聞くと、「家族全員で食事した」と答えるが、子どもは「親とは一緒でなかった」と答えるケースがある。子どもにとって食事を一緒にしたかどうかは、その場にいたかどうかよりも、コミュニケーションの有無が大切な要素である。
・朝食
96%の子どもは朝食を食べているが、残り4%は食べていない。食べた時間はあまり10年で変化してないが、8時以降で2%から4%となり、学校の始業時間との関係で、あわただしく朝食をとらざるをえない子どもが増えている。
誰と食べたかをみると、家族全員では横ばいで、大人もいたが全員でないが増加し、子どもだけや一人の層は減少している。それでも子どもだけと一人を合わせると29%になる。男女差はあまりない。
給食や夕食に比べると空腹感は少ない。起床してから朝食までの時間が短く、また排便をしていないことや、前日の夜食の影響などが考えられる。食欲のない状態で食物を口に入れても、食事が楽しくないし、また栄養素の吸収にも悪影響を及ぼすことだろう。
・給食
給食が楽しいと感じている子どもは83%いて、夕食の72%や朝食の50%よりも多い。友人とのおしゃべりをはじめとして、バイキングや郷土料理などの工夫、さらにはランチルームの改装など、学校給食における関係者の創意工夫がすすんでいる結果であろう。男女差はない。
・夕食
家族全員で夕食を食べたが5ポイント増加し、それだけ家族団欒の場が広がっている。家族でいっしょに食事を楽しむという親の意識変化と同時に、残業が減少するなど就労形態の変化が影響しているかもしれない。男女差はない。
夕食の手伝いは朝食と同じく、92年に比べて大きく低下し、男32%に対し女46%となっている。子どもが塾や習い事で忙しくなっていることと、出来合いの惣菜を利用するなどして、そもそも子どもが手伝うほどの料理を家庭で作らなくなっていることも影響している。食育の必要性がここでも求められている。
夕食の手伝いでは、「料理の下ごしらえをする」で6%、「料理を作る」で10%といったように、子どもが楽しさを実感することよりも、「食器や箸を準備する」で50%、「後片付け」で14%、「食器洗い」で8%などが多く、朝食のときと同じく手伝いが躾の場となっている。男女で差があるのは、料理の下ごしらえ(男4%、女8%)、料理を作る(3%、15%)、後片付け(17%、12)である。
・食べ物の購入
購入先は男女ともにコンビニとスーパーが多い。他方で昔ながらの駄菓子屋も健闘している地域がある。県別で購入先をみるとばらつきが大きい。
・体の不調症状
身体的自覚症状では、「頭が痛くなりやすい」で20%、「風邪をひきやすい」で18%、「足が重い感じがする」で15%と多い。性別では、「便秘をしやすい」と「頭が痛くなりやすい」で、男の子より女の子が多くなっている。
次に精神的自覚症状では、「だるくなりやすい」が24%や「夜よく眠れない」で22%と高率で、またどちらの項目も女の子に多い。
81年のNHK調査と、生協で実施した92年と02年の比較をすると、「便秘をしやすい」「下痢をしやすい」「目眩がしやすい」において増加ないし横ばい傾向で、便秘や下痢といった神経に関わる影響が増加している。
体の不調症状数では、0の子どもが増えていることは評価できるが、それでも自律神経失調症の予備軍としての危険性を指摘される4個以上が、まだ16%いることは問題である。不規則な食生活だけでなく、過剰なストレスなども影響していると推測できる。
朝食をとっていない子どもは特に女の子の不調が顕著で、「だるくなりやすい」が44%(全体の女子は28%、以下同じ)、「頭が痛くなりやすい」は44%(23%)、「目眩がしやすい」は36%(13%)、「夜よく眠れない」は52%(24%)と強く訴えている。
・一人食べの子どもは
朝食を一人で食べている子どもは、全体の子どもに比べて不調症状を多くかかえている。
一人食べでは、「便秘しやすい」が12%(全体では9%、以下同じ)、「だるくなりやすい」は34%(24%)、「元気が出ない」は19%(8%)、「頭が痛くなりやすい」は29%(20%)、「目眩がしやすい」は19%(10%)、「風邪を引きやすい」は25%(18%)、「不調症状数が4個以上」は28%(16%)となっている。
・不調症状が4個以上ある子ども
11時半以降に就寝している夜更かし型の子どもでは、4個以上の不調症状をもっているのは16%で、全国平均の10%よりも多くなっている。
また不調症状が4個以上の子どもは、一人食べが多く、体で気にしているのは太りすぎで、全体の子どもの26%に対し44%が肥満を気にしている。男女比では、男4に対して女6の割合である。
・食事での希望
家の食事で自分がしたいことは、「料理をつくる」が40%、「手伝いをする」27%が上位にあり、子どもは家庭の食事に楽しく参加することを望んでいる。その積極的な力を大人がきちんと評価し、引き出してあげることが子どもの食の自立にとって大切なことである。
食卓の雰囲気で親にしてほしいことでは、「明るく、楽しく」41%、「話をしてほしい」21%、「家族全員で食べたい」15%が多く、家族との楽しいコミュニケーションを子どもは求めていることがよくわかる。
給食において自分でしたいことは、「給食を作る、作る手伝いをする」を41%が望んでいる。自分が努力して調理した料理で、友だちや先生が喜んでくれると、これほどその子にとって嬉しいことはない。そのことが食への自信となり、自立へとつながっていく。
こうしてみると子どもたちの食に関わる願いは、かなり健全であると評価してよいのではないだろうか。
・ おわりに
このような子どもの食生活の実態調査を通して、いったい何が私たちに求められているのだろうか。
第一に総合的な視点で子どもの食をとらえることである。栄養素や食品添加物などの個別問題はもちろん大切であるが、それと同時にストレスを少なくするため楽しいコミュニケーションや雰囲気づくりなども重要である。これまでの栄養学や医学からだけでなく、心理学や社会学的なせまり方も子どもの食を理解するうえで必要である。たくさんの食卓の絵は、一つの規準だけで判断できない数多くのことを物語っている。
また子どもの食にとって、楽しいことは大切な要素である。3食の中で給食が一番楽しいと答えていることは、家族との食事において親は給食から学ぶことがいくつもあることを意味する。
第二に、子どもの主体性を大切にすることである。家族や友達が喜んでくれる料理を作ることは、調査でも多くの子どもが望んでいた。個人の調理技術を発達させるためにも、料理を作りたいという気持ちを大切にしてあげることは重要であるが、「危ないから」とか「時間があれば勉強しなさい」と言って調理をさせないことが多い。
幼子の「ままごと遊び」では、工夫して空想の食事を楽しんだりしているが、いつの間にか大人の注意で残念ながらやめている。
子どもの主体性を大切にし、自らの手で作って食を楽しみたいという子どもに内在する積極性を、まわりの大人は引き出してあげることが求められている。
第三には、食のゆがみを個人の責任としてだけでみるのでなく、社会病理としての側面にも注目する必要がある。
マスコミなどによる限りなき欲望の扇動は、子どもの食についても及んでいる。8割の子どもが食べるおやつや5割も利用している夜食だけでなく、朝食や夕食にもコンビニなどで販売している加工食品がいくつも登場している。そうした商品には、美味しくするため精製した脂や砂糖などを使用し、かつ軟らかいものが多い。美味しくて軟らかい食品は、忙しい子どもたちが好んで口にする。
ところで便利性の過度な追求は、体の機能を低下させる。粉食などによって咀嚼が少ないと、唾液の分泌が弱く、食べ物の消化や吸収が不充分になりやすい。
第四に、子どもが食に興味を持ち、くらしの中で体と心を育む食育が大切である。
かつて食育は、家族や地域で普通に行なわれていた。食糧の生産や収穫などに関わり、それらの下処理や調理に子どもでも触れることが当たり前であった。
それが経済の発展に伴い、食の社会化が進む中で、専門の食品メーカーによって細分化され、食の担い手が家庭の外に移りつつある。
それでも「食べることは生きること」であることは今もそのままで、食の大切さは変わらない。食にはいくつもの側面がある。生産や流通から見た食、体や心との関わりの食、栄養やカロリーと食、調理と食、文化としての食、そして自然環境と食も深くつながっている。
これらのどこにでも興味がわいたことから食との接点を広げ、いくつもの体験を繰り返して、子ども一人ひとりの心身に合った食の意識・知識・技術を会得していく。
ところで生きるために大切なひとつである食べる力は、人類の長年の歴史によって動物の一種であるヒトに備わってきた。例えば人体の6~7割をしめる水が体内に不足すると、誰も自然に喉が渇き水を求める。つまり食で心身を維持し命を守る力は、子どもの体内にあると考える。その内在する力を、残念ながら今の社会はいくつも阻害しているのではないだろうか。経済の成長にともなう食の過度な社会化により、過剰な食品添加物や農薬を使い、食品というよりも化学物質に近い砂糖や塩などの精製食品を多く利用し、さらには限りない欲望を扇動するマスコミなどによっても、子どもの食や健康にゆがみが生じている。こうした社会病理をなくす取り組みも大切である。
子どもの健やかな体と心を育む食育が、これまでになく求められている。
