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「体と心を育む食育」
-生協における食育のすすめー
食育と生協の役割り研究会
1、 食育とは
食育が各方面で話題となっています。国会の場で食育基本法が議論されるなど、行政主導で食育の普及を強化しつつあります。しかし、その定義や取り組みは各省で次のように差があります。
① 厚生労働省は、「国民の健康づくり運動の推進」(健康日本21)や、食の安全とリスクコミュニケーションを提唱するなどして健康教育を強めています。
② 唯一の定義をもっている農林水産省では、「一人一人が自らの食について考え、判断できるようにすること」としています。各地の農政事務所などを通じて、食の生産と消費をつなぐ食農教育の普及に努めています。
③ 文部科学省では、学校の授業における食に関する指導や、学校給食への地場産物の利用などをすすめ、児童や生徒の食教育に取り組んでいます。
行政以外では、業界団体や市民団体やマスコミなどでも食育の言葉を多く使い始めました。それぞれの思いを食育に込め、類似の単語としての食農教育、食教育、地産地消、スローフード、身土不二(農都不二)などと、あまり差がなく使用していることもあります。
それぞれが各界で思い思いに使用している食育を、私たちの生活者サイドに引き付けると、「一人ひとりが食に興味を持ち、食を通して生きる力を生涯にわたって発揮し、体と心を育むこと」と表現できます。
ところで教育には、知識を広めて知能を伸ばす知育、健全な体をつくるための体育、知能と体を使って物を作る総合技術教育、そして社会性を身に付ける徳育があります。
食育は、これら4つの教育を基礎として「生きる力」に含まれ、またそれぞれの一部にも深く関わっています。
図1 知育、体育、総合技術教育、食育の関連
知育
徳育
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体育 総合技術教育
|
生きる力(食育を発達させる力を含む) |
2、食育の力を培ってきた人類の進化と日本の伝統文化
(1)人類の進化
ヒトは生きていくために体を動かすエネルギーが必要であり、生存している間は食べ物を外から体内にとり続けなければなりません。かつて人類の祖先が、アフリカ大陸で地上に立ったとされる約500万年のさらに以前から、命を守るために木の上でも木の実や葉や昆虫などを食べてきました。
こうした長い年月の中で、ヒトは何をどのように食べることが、自分の体や心にとって大切であるのか追い求めてきたのです。その結果、歯の構造や胃や腸などの消化器系の臓器も、食べ物に適して少しずつ変化し発達させてきました。
また五感をフルに働かせて、体の健康に役立つ食べ物と、反対に危険な食べ物の区分けを学んできました。この判断を誤ると、厳しい自然環境の中で健康を維持できないだけでなく、それは死につながる危険性すらありました。まず目で食べ物の色や形を観察して食べてよい物かどうか確認し、次に鼻を使って臭いで腐敗していないか調べます。それらで問題がなければ口の中に食べ物を入れ、異物があればそれを取り出し、なければ何回も噛んでから飲み込みます。
こうした長い試行錯誤を通して人類は、何をどのように食べていけばよいのか判断する力を少しずつ身に付けてきました。
例えば、体内に外から取り入れる物で、水は大きなウエイトを占めます。人体の6~7割は水であり、健康な心身を維持するために何よりも必要不可欠な存在です。消化液や血液として体内における養分の運搬作用、熱を吸収しての体温調節、体液の濃度の調節、そして体内で生じる老廃物の排泄に、大人で1日に水を約2リットルも必要としています。このように健康のためになくてはならない水が、体内に少しでも不足してくると、誰も自然に喉が渇き水を求めるようになります。
心身の健康を維持する他の栄養分についても同じことが言えます。心身が疲れているときは甘い食べ物を口にしたくなるし、重労働やスポーツをして汗をかくなどすれば塩分を含んだ食品が欲しくなります。淡白な野菜を食べたいときもあれば、脂肪の多い肉や魚類をお腹に入れたいときもあります。
もちろん年齢や体格や性別や季節などにより、何をいつどれだけ食べればよいのか一人ひとりによって異なり、そのときの体調や精神状態によっても、食べたい物や量は大きく左右されます。そうした人によって条件が異なるため、何をいつどれだけ食べたいと感じるかはまちまちですが、各自の体が内部から求めています。
ところが増えつづける化学物質やストレスなどにより、そうした内部からの食育の力を充分に発揮することが困難になっています。
図2 食育を発揮する力は体内に

食育を発揮
する力
(2)日本の伝統文化
また、世界中からも理想的な食として注目されている日本型食生活の和食料理は、半世紀前の戦前にはほぼ完成していました。各地域で生産する麦やヒエや米などの穀物を主食とし、季節の野菜や魚介類やきのこなどを豊富に組み合わせた郷土料理です。身近な生産物を利用する身土不二の考え方が各地で実践されていました。
古代の日本では、自然界に生育する木の実や小動物などを捕って食べていました。やがて縄文時代から弥生時代にかけ、中国大陸からの稲作などの伝来を受け、また奈良時代には独自の工夫で味噌や醤油を作るようになり、特に貴族の食事は大きく発展しました。こうして和食の原型は、平安時代の公家の食べ物として完成したものです。やがて武士が治める時代となり、町には市場がうまれて食糧の交易が増えていきましたが、多くの庶民は住んでいる地域で採取した食材を利用してくらしていました。安土桃山時代には、すでに我が国に定着しつつあった中国や朝鮮の食文化の他に、ポルトガルやスペインからの調理技術や野菜なども入り、それまでの料理と融合していきました。それは長期に戦乱のない平和な江戸時代により発展し、庶民の食事を含めて今日の季節感あふれる日本型食生活の基礎ができ、明治、大正、昭和の初期と成熟していったのです。
こうして長年かかって培ってきた日本型食生活においては、食育が家庭や地域で常日頃から普通に行なわれていました。多くの人たちが食糧の生産や収穫などに直接関わり、農作物や水産物などの下処理や調理に、子どもでも参加することが当たり前でした。このため食育は、食に関わる大切な伝統文化の一つとして、村や内食を賄う家族の共同体に引き継がれて、次世代の一人ひとりにも継承されてきたのです。
それが第二次世界大戦後の復興において、特に1960年代以降の高度経済成長に伴い、食の社会化が著しく進む中で、専門の食品メーカーなどによって細分化され、食の担い手が家庭の外に大きく移ってきました。このため一人ひとりが、食に触れて関心を持つことがだんだんと少なくなってきました。
それでも「食べることは生きること」であることは今も昔もそのままで、食の大切さは変わりません。家族や地域といった共同体が本来持っていた食育を培う力を掘り起こし、私たちのくらしに取り戻すことが大切です。
(3)生協が育んできた食文化と食育
① 食の安定
創設期の生協では、何よりも食の安定した供給を重視し、1879年(明治12年)に設立となった東京の共立商社や、同じ年に設立の大阪共立商店は、どちらも米・薪・炭を中心に取り扱っています。西南戦争の影響もあって物価が高騰している中で、協同して食の安定を目指したわけです。
戦後の食糧難のときもそうでした。必要なカロリーの半分しか配給がなく、1946年(昭和21年)には食糧メーデーが開催され30万人が参加しました。こうした食糧確保のため1947年(昭和22年)には、実に6,503の生協(地域生協2,044、職域生協4,459)が各地に設立されたのです。10円の牛乳運動もこの頃です。
1973年(昭和48年)には、日生協総会で「国民食料の確保についての決議」を採択しました。
② 食の安全
1961年(昭和36年)からの10年間で国民総生産(GNP)を3倍化させた高度経済成長は、国民の物質面におけるくらしを豊かにした反面で、物価の高騰や公害や不良商品・有害商品・不当表示などのゆがみも生み出しました。
食のインスタント化に伴い、大量生産して遠くまで運ぶため保存料や酸化防止剤が添加され、また見栄えをよくするため着色料や着香料などの食品添加物を使用した、いくつもの加工食品が数多く出回るようになりました。発ガン性のある人工甘味料のチクロや、清酒の防腐剤として使用していたサリチル酸の有害性が、大きな社会問題になったことは一例です。
また生産の段階において効率を高めるために、化学肥料や農薬や抗生物質の利用が増えていきました。公害によって河川や海が汚染され、たとえば発がん性の高いポリ塩化ビフェニール(PCB)の影響を受けた近海の魚が問題となりました。
こうした中で生協は、独自に食の安全を確保するため、小売業界としてはいち早く商品検査の施設を構えました。灘神戸生協(現コープこうべ)が最初に商品検査室を設けたのは1961年(昭和36年)のことで、1972年(昭和47年)には日本生協連が商品試験室を設置しました。
1984年(昭和59年)に日生協では、「食生活の安全に関する学者・専門家懇談会」を発足させ、当時の厚生省よりも食品添加物に対する厳しい規準をZリストとしてまとめ、その後の商品開発や運動などに活かしてきました。
最近では、牛海綿状脳症(BSE)や鳥インフルエンザなどが、海外を含めて問題となりました。このため都道府県に生協から働きかけ、食品の安全を確保するための基本方針の策定や、食品の安全に関わる横断的な組織の設置などを求めています。
③ 食の安心
60年代の後半から各種の産地直結の取り組みが各地ですすみ、生協では「生産者である農民または農民団体と、消費者または消費者団体との結びつき」を重視してきました。そこでは農業や漁業などで働く人たちとの交流を強め、「お互いの顔の見える関係」を大切にして、安全だけでなく安心にも注目した取り組みが強まってきました。
1987年(昭和62年)に開催となった日生協の産直交流会では、産直3原則として、第一に生産者や産地が明確なこと、第二に農薬や肥料などの栽培方法が明確なこと、第三に組合員と生産者が交流できることが紹介されました。
こうした食の安定、安全、安心以外にも最近では、組合員とメーカーも一緒になって、楽しさや美味しさを追求した新しい食品を各地の生協で作っています。子どもたちが参加して商品開発し、話題になっている食品もあります。
このように時代の変化とともに生協の食へのこだわりは変化してきましたが、生産者やメーカーや行政などの他人任せにするのでなく、生活者の私たちの知恵と力で、科学的な根拠をもとにして、少しでも良い食にしようと努めてきました。自主性と科学性は、食育にとっても大切なことです。
3、食育の力を押さえているのは?
生きる力の大切な一つとして食育の力は、一人ひとりの体内に本来は備わっていますが、残念なことに次のようないろいろな原因によって、充分に発揮することが難しい生活環境となっています。
(1)純度の高い精製品や食品添加物や農薬などの使用により、自然の食べ物とは異なり、化学物質を加えることによって人為的に作り上げた加工食品が増えています。
(2)水や空気が汚れて、化学物質などが体内に入っています。またタバコやアルコールの影響も強まっています。
(3)体が必要とする以上の食べ物の量を体内に取り入れ、体が対応仕切れない飽食や暴飲暴食が増えています。
(4)小麦粉、肉、油脂製品などの構成比が高くなり、またジュースや炭酸飲料などの増加で、食の洋風化が短期間に進み、日本人の体の機能とのミスマッチが進んでいます。
(5)食事の時間が不規則になり、また就寝時間が遅くなるなどして体内時間に狂いが生じています。
(6)勉学や仕事などによって過度なストレスがかかり、正常な食欲をなくすことが多くなっています。
(7)各自が忙しくなり、食事のときに顔をあわせて心と心を通わすコミュニケーションをとることが難しくなっています。
(8)マスコミの情報やコマーシャルなどが、ダイエットやグルメなど際限のない健康や食への欲望を扇動しています。
(9)家族や地域を構成している一人ひとりにおいて、住まいと職場が遠く離れ、仕事や勉学やスポーツが忙しくなるなどして、バラバラの状態にさせられ、共同体が崩壊しつつあります。このため共同体として、食育を発達させることが難しくなっています。
こうした阻害要因をできるだけ取り除き、本来の各自が持っている食育の力を充分に発揮させることが何よりも求められています。
図3 食育の力を押さえている要因
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精製食品 食品添加物、農薬
コミュニケーション不足 マスコミの扇動

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水や空気の汚れ 食育を発揮 ストレス
する力
食べ過ぎ
不規則な時間で夜型![]()
共同体の崩壊
4、きっかけ(動機)づくり
各自が備えている食育の力を、外からの押さえに負けず発揮するためには、食のどこか一部にまず興味を持ち、それをきっかけとして次の体験へとつなげていくことが効果的です。食育の要素としては、食べ物・体と心・栄養・調理・食文化・環境の6項目に大別できます。
1)食べ物は今
① 食べ物とは
食べ物(食品)は、体の外から消化器官を使って取り入れる物の総称で、食とは漢字で「人」の中に「良」と書くように、次のような要素から人を良くするものです。
図4 消費者が食べ物に求める要素
楽しさ
美味しさ
安 心
安 全
安 定
消費者が求める食べ物にとって、何よりも継続して必要な量を供給する安定が大前提で、次が人体の健康に危害を与えない安全、そして誰がどこで生産や加工し、どのような経緯で流通してきたのかという安心です。
ところが最近の食のファッション化や営利追求などにより、加工食品において安全性を軽視した美味しさや楽しさを求める風潮が広がりつつあります。
食べ物の大半は植物か動物を材料としており、時間とともに品質が必ず劣化します。その劣化をできるだけ科学技術や防腐剤などでおさえ、食品産業が成長するにつれて食べ物の内容が大きく変わってきました。加工技術や多種多様な食品添加物を使用し、ビン詰めや缶詰の食品からレトルト食品、インスタント食品、冷凍食品、惣菜、ファーストフード、さらには本物と間違うほどのコピー食品も開発されています。
こうした中で、食べ物の安全性をめぐっていくつもの新しい問題が発生しています。肉骨粉を餌として牛に広がった牛海綿状脳症(BSE)、家畜や養殖の餌に病気対策として入れている抗菌性物質、牛の肉を柔らかくするための女性ホルモン、容器や自然環境からの環境ホルモン(外因性内分泌撹乱化学物質)などが原因です。
また食べ物は、生産から消費・廃棄へと時間と共に変化し、それぞれの学問・研究領域が対応しています。(図5参照)
図5 食べ物の流れ
食糧・食品→ 流通・宣伝→選択・購入→ 調理・加工→ 摂取→ 消化→ 排泄
・飲料の生産
農学・食品学・環境学 経済学・商学 社会・産業心理学 調理学 生理学・栄養学・医学・保健衛生学
食育をくらしとの関わりで考えるときは、お皿やテーブルの上だけでなく、こうした全体を視野に入れることが大切です。つまり食を楽しむためには、料理を味わうことだけでなく、栽培や収穫、さらには買い物や調理、そして共食しつつのコミュニケーションなどいくつもの場面があります。
美味しい物を食べることは、生命を維持するためにも極めて大切なことであり、そのことが免疫力や副交感神経を高め、さらに心身の健康へとつながっていきます。
② 国内の農水産物
国内での生産が減少し続け、すでにカロリーに換算すると6割を海外に依存しています。先進諸国でも日本だけが極めて低いレベルのままで、農林水産省の発表によれば2003年のカロリーに換算した自給率は40%、穀物自給率にいたっては27%です。
表1 主要農水産物の消費と自給率:2003年
消費量kg/人・年 自給率%
米 61.9 95 →
小麦 32.6 13 ↓
大豆 6.7 4 ↓
野菜 95.0 82 ↓
果実 39.8 44 ↓
牛乳及び乳製品 93.1 69 ↓
魚介類 36.2 50 ↓
肉類 28.2 54 ↓
鶏卵 16.7 96 →
油脂類 15.0 13 →
2002年3月に農林水産省が食糧危機に対して、「不足時の食料安全保障マニュアル」を作成したように、生産国の気候や経済や政治の動向によっては、輸入食品が大幅に減少し、我が国の食べ物の大幅な不足が現実化します。
食の洋風化がすすみ、米の利用が減少し、パンなどの軟食が増えています。米はこの40年間で、一人あたりの利用が4割減となり、その分を小麦、油脂、畜産物でおぎなっています。
食の社会化がすすみ、2000年の飲食費の51.7%を加工品がしめ、外食は29.5%で、家庭で料理する生鮮品等はわずかに18.8%となっています。
③ 国内の生産者や生産地
減少傾向が続く国内の総農家戸数は、2003年に298万戸となりました。その農家において65歳以上は同年で56.1%にもなり、さらに同居農業後継者がいない農家は46.5%で、同居後継者がいる農家でも農業が主はわずかに6.9%です。
同様に食糧の生産に深く関わっている漁業世帯数は、2002年に17.8万戸で就業者数は24.4万人となり、後継者不足や高齢化などは農家と同じ傾向を示しています。
食糧の生産には林業も深く関係しています。その林業で働いている人は2002年で6.7万人まで減少し、高齢化や後継者不足は農水産業で働く人よりも深刻です。
こうした一次産業で働く人の高齢化と減少により、後5年もすれば農村、漁村、山村で働く人が激減し、国内での食糧生産量だけでなく、田畑や森林や海岸などの自然環境にも大きく影響することが懸念されています。
④海外の食糧
アジアやアフリカや南アメリカなどのいわゆる発展途上国はもちろんとして、先進諸国であるフランス(2001年の食料自給率122%)やアメリカ(同121%)やドイツ(同99%)やイギリス(同61%)などでも農業生産が盛んです。
こうした国々では、生産量をさらに効率よく増加させるため、収穫量の多い品種への改良や、森林などを切り開いての農地の拡大、化学肥料や農薬の増産などを進めています。農薬は、輸出する農作物へ収穫後に使用するポストハーベストにも利用され、輸入国における残留が問題になることもあります。
さらにはバイオテクノロジーの技術を使い、害虫への抵抗力の強いトウモロコシを作るなど、種をこえて交配させる遺伝子組み換えの作物も増えつつありますが、人体や自然環境への安全性などで課題を残しています。
ところで生産された食糧が、世界中で公平に分配されているわけではありません。先進諸国では過食で肥満が増え、生活習慣病などで命を落とす人が多くなっている反面で、逆に充分な食糧がいきわたらない国々では、発達不良や餓死に直面している人も少なくありません。発展途上国では食事として利用される穀物が、先進諸国で家畜の餌となり、肉食中心の消費が拡大していることも問題を深めています。
こうした食糧をめぐり、世界の人口の約2割をしめる12億人が、1日に1ドル(約110円)以下の生活をするなど貧富の差が拡大する中で、次のような理由により問題がより深刻化することが予測されます。
第1に、発展途上国を中心とした人口の増加です。現在の63.8億人の世界人口が、2020年には75億人に達するとの予測があり、あわせて大都市への集中がさらに進み、食糧問題がより強まっていきます。
第2には水不足で、WHOの報告によると11億人が飲み水に苦労しています。増加する人口が必要とする飲料水はもちろんのこと、農産物を育てるためにもたくさんの水が不可欠です。大規模な農場では、自然界が補給する以上の量の地下水を利用しているため、やがて生産ができなくなります。
第3には、多くの化学肥料や農薬を使い、単一作物を広げている弊害です。地力が低下し、塩害などによって砂漠化が進み、畑や水田が減少します。また窒素肥料の使いすぎは、硝酸態窒素として地下水や河川を汚染し、飲料水や農作物にも含まれて人体へ悪影響を与えています。
第4には、卵や肉を好む人口が増加し、穀物を人の食糧として利用するのでなく、家畜の餌として利用する率が高くなっています。トウモロコシを餌として与えるときに、牛は11倍、豚は7倍、鶏は4倍、鶏卵は3倍の重さの量が必要とのことです。
第5には、食糧として大切な魚介類は、捕り過ぎが問題になっています。FAO(国際連合食糧農業機構)の推定では、世界の漁業資源の75%が持続可能な漁獲量の限界に達しているか超過しています。
第6には、地球温暖化による気候や海水への影響です。排出の続く排気ガスや焼却熱、森林や草原の減少、人口が集中する都市の肥大化などにより、各地で温暖化がすすみ、異常気象などによって生産物に影響が出ています。
こうした理由が重なり、いずれ近い将来に水や食糧の不足をめぐるトラブルが、自給率の低い日本を含めて世界の各地で発生する可能性があります。
2)体と心は今
①体は
動物に適した食べ物を判断するためには、まず歯の構造を見ます。ヒトの歯は、野菜・果実・海藻などを食べる門歯(前歯)、肉や魚を裂く犬歯、そして米や小麦などの穀類などをすり潰す臼歯で構成されています。幼児の乳歯と大人の永久歯で構成比は異なりますが、歯の種類と構成比に応じた食物の割合が、ヒトに適した食べ物を判断する1つの大きな目安となります。
表2 歯の種類と割合
門歯(前歯) 犬歯 臼歯 計
乳歯 4本(40%) 2本(20%) 4本(40%) 10本(100%)
永久歯 4本(29%) 2本(14%) 8本(57%) 14本 (100%)
ところが実際に食べている物を見ると、とくに子どもや若者で肉類の構成比が高く、逆に穀物の割合が少なくなっています。
また美味しく食べるためにも歯は重要で、硬さ、粘着度、歯ざわり、温度、噛んでいる場所などを感じます。
こうして食物を取り入れるために大切な歯が、日本の子どもで2003年の幼稚園では58.8%、小学生では71.3%もむし歯となっています。また大人では歯周病になり、本来の噛む力を充分に発揮できていない人も少なくありません。
他方で軟らかい食事が増え、噛む回数が少なくなり、歯やあごの骨の発達に影響を及ぼしています。同時に澱粉分解酵素(アミラーゼ)などを含む唾液の分泌が弱くなるとか、あわせて脳への刺激が不充分になっています。1回の食事のときに噛んだ回数は、現代を1とすると、弥生時代の卑弥呼が6.4倍、鎌倉時代の源頼朝が4.3倍、江戸時代の徳川家康が2.4倍との説があります。
舌や上あごで感じる甘味・酸味・塩味・苦味・うま味などの味覚は、幼児の頃からの訓練で発達します。ところが早い時期から化学調味料などに慣れてしまうと、強い味を覚えてしまい、自然の味覚を充分に味わう力が発達しません。
体内の口腔(こうくう)と腸には、それぞれ100種類以上の細菌が存在し、各々の役割を発揮しています。特に一人の体内に約1kgも存在する腸内細菌は、栄養素の消化吸収機能を高め、有害や発ガン物資の分解、ビタミンの合成、ホルモンの生産などにも貢献しています。
胃は空腹と満腹を繰り返すことにより、交感神経と副交感神経を交互に活発化させ、活動や休息をスムーズにすることができます。
心と体、免疫、自律神経、ホルモンは密接な関係にあり、相互に強く影響しています。あわせて体内には生体時計があり、食事の時間とも関連しています。
また食物を体内に取り入れることと同様に、排泄も重要です。取り入れから排泄まで消化器官が関連しており、排泄をスムーズにすることによって栄養素やエネルギーの効果的な吸収につながります。
こうして体を健康に維持するために大切な食べ物ですが、ときには食物アレルギーとして、喘息やアトピー性皮膚炎などの症状を起こします。まだ吸収力の弱いときに、卵や牛乳や大豆などの抗原(アレルゲン)によって抗体ができると、次からその抗原が食物の一部として体内に入ったときに、気管支や鼻や皮膚や消化管などにアレルギー症状を起こします。
②心は
心を通わせることのできる人と一緒に食事することは、食を楽しむために大切なことです。食事をしつつコミュニケーションをとってリラックスし、ストレスを発散させて消化器官はスムーズに活動し、食べ物の消化や吸収を助けます。
家族や友人がたとえ食卓にいなくても、側にいるペット(コンパニオン・アニマル)や観賞用の植物などと心を通わせて食を楽しむこともできます。
逆に家族と一緒に食卓に座っていても、勉強や躾(しつけ)のことなどで親から注意ばかり言われている子どもは、ストレスが溜まって楽しい食事になりません。そのため親の関心をそらすためテレビ画面を見るとか、もしくは一人だけで食べるようにしている子どももいるのです。
また食欲と食べ物は深い関係にあります。空腹となって胃袋が収縮すると、脳にある摂食中枢が刺激され食事という行動に移ります。同時に、空腹になると血液中の遊離脂肪酸が増え、ここからも摂食中枢に刺激を与え、食欲を高めて生命を維持するための食事を促します。この摂食中枢には、視覚や臭覚や聴覚などの五感によって「美味しそう」と感じたときに作用し、食欲をより強めることになります。
こうして満腹になると、満たされた胃袋から脳の満腹中枢へ連絡します。ところで食事をすると血液中のブドウ糖が少しずつ増加し、一定の数値になると満腹中枢を刺激して、食べる行為を止めるように働きますが、その間に約30分かかります。このため早食いすると、満腹になっても脳がすぐ作動せず、体に負担をかける過食となります。
心と食が正常に連動していれば健康な体を維持することはできますが、逆に病んだ心などから、過食症や拒食症の摂食障害を起こすケースが我が国でも増えつつあります。この摂食障害は、無理なダイエットややけ食いを繰り返して、脳に異常をきたす生物学的要因の他に、体重や体型への一人よがりの思い込みや対人関係の悩みなどによる心理的要因、さらにはスリムな体型を賛美する風潮や飽食を推し進める社会的要因があります。
3)栄養は今
人が生きていくためには、多くのエネルギーを使って体を作り活動しなくてはなりません。そのために大切な栄養とは、生物が生命を維持し、発育や生殖や生活のために、外部から食物を取り入れ体内で消化し吸収する働きを意味します。食べ物の成分である栄養素は、エネルギーの基となると同時に、あらゆる体を構成します。
3大栄養素として、たんぱく質・脂質・炭水化物があって、これらはエネルギーを供給する熱量素です。2002年における日本人のエネルギーに占める栄養素の割合は、たんぱく質15.1%、脂質25.1%、炭水化物59.8%です。このエネルギーは年齢別で見ると、たんぱく質はほぼ同じであるのに対し、脂質では1歳から19歳までが28%台と高く、逆に炭水化物が少なくなっています。ところで脂質は、たんぱく質や炭水化物よりもエネルギー燃焼は倍ほど高くなっています。
次にこの3大栄養素が体内で働くときに、反応を促進するのがビタミンです。このように3大栄養素が効果的に働くためにも、ビタミンとミネラル(無機質)が必要になってきます。この他に食物繊維や、少量ながら大切な役割を果たす微量栄養素もあります。
こうした栄養素に過不足がおきると、肥満ややせにつながります。日本肥満学会では、BMI(Body Mass Index 体重kg÷(身長m×身長m))で次のように判定しています。
表3 やせと肥満の基準
18.5未満 やせ
18.5以上25.0未満 普通
25.0以上 肥満
この基準によれば、2002年の日本人は、男性でやせ4.4%と肥満は28.9%に対し、女性でやせ10.0%と肥満は23.0%になっています。年代では30~69歳の男性と女性の60~70歳以上が肥満で3割台となり、女性の20~29歳でやせが26.0%です。
他方で体重にしめる脂肪の割合の体脂肪率は、家庭でも簡単に計測ができるようになりました。一般には、以下が判定の目安です。
表4 男女別の体脂肪率による判定
男 女
やせ 15未満 20未満
適正 15~20%未満 20~25%未満
やや肥満 20%以上 25%以上
肥満 25%以上 30%以上
普通の体重の人に比べて肥満者は、糖尿病の発生が5倍、高血圧が3.5倍、胆石症が3倍、痛風が2.5倍、心臓血管障害が2倍、関節障害が1.5倍も多くなり、また乳がんや大腸がんなどのリスクも高くなると言われているので、肥満にならない食生活は大切です。
4)調理は今
各自の好みに応じた美味しい料理を作るためには、調理器具や技術を活用すると効果的です。洗ったり切ったりして下処理した食材を、料理に応じてガスなどの火力を使い、煮る、焼く、揚げる、蒸すなどの調理をします。最近では、電子レンジや電磁波を使った家庭での調理も普及しつつあります。
食生活では加工食品が増え、惣菜や調理済み食品などの利用が増加して、いわゆる中食(なかしょく)の割合が高くなり、家庭での調理の頻度が少なくなっています。また食事時における子どもの手伝いが減り、食材や調理に関する知識や技術が親から子へ充分に伝わらなくなりつつあります。
一方、安全であるべき食事が逆に害となる食中毒が発生しています。2002年の我が国における食中毒は、発生数が1,850件で、患者数は27,629人で18人が死亡しています。
食中毒の発生場所では、家庭は2割前後からこの数年は低下していますが、それでもまだ9.9%あります。もっとも発生場所の特定できない件数が半分にもなっており、家庭における食中毒の実数は、もう少し多いものと推測できます。
ところで食中毒は、細菌やウィルスなどの微生物、毒きのこやフグなどの自然の毒、そして薬品などの化学物質によって発生します。我が国での発生原因をみると、微生物が74.4%と一番高い構成比をしめ、それもこれまでのサルモネラ菌や腸炎ビブリオ菌だけでなく、小型球形ウィルスなど新しいタイプの食中毒菌が増加しています。生産地の広がりや抗生物質の普及などによって、新しい型の菌が増加しており、食中毒菌の種類はさらに増えることが予想されます。
どのような食材も、人体にとって100%無害ということはありません。どんな植物であれ動物であれ、種を保護するため外敵に対抗する物質や機能を必ず備えています。さらには生産から消費までに輸送の距離や時間がかかれば、空気中や接触した相手などから病原菌が付着して増殖することもあるし、食材そのものの品質が劣化します。
こうして安全性に問題があることを前提にして、個人や家庭で食べるときの調理では、次のようなポイントによる管理が大切です。
第1に、新鮮な食材の見極めや保管です。食材を購入する時の点検や、家庭における冷蔵庫や冷凍庫などでの保管を適正におこない、腐敗した物などは調理しないことです。
第2に、食材別に下処理を充分に行い、手や調理器具を介して食中毒菌が広がらないようにすることです。このため手はよく洗い、菌などで汚染の可能性が高い魚や肉などと、野菜などを切るときのまな板は別にすると効果的です。
第3は、微生物を熱で死滅させるため充分に加熱することです。煮物はよく煮込み、揚げ物や焼き物などは中心まで高温にします。
第4は、調理後にできるだけ早く食事します。加熱が終わると、空気中に浮遊する菌や、盛り付けする人の指から料理に付着した菌が増殖をはじめ、普通は4時間ほどから急激に増えて食中毒の危険性が高くなります。
5)食文化は今
日本の各家庭や地域には、大切な文化が長い歴史を経て継承されてきました。食文化も同じで、人間らしく生活するためにも、伝統の味や料理の技術を受け継ぎ、次の世代に伝えることは大切です。我が国の食文化が育んできた日本の食事は、理想的な食に近いとして世界中から注目されています。
ところが戦後になって特に高度経済成長の頃から、短期間に日本の食文化が大きく変化してきました。食の洋風化です。この風潮は、社会的な仕組みによって変化させてきたことが特徴です。
第1に社会的な側面です。まず政治面では、「アメリカの小麦戦略」と称している戦後の動きが大きく影響しています。1954年(昭和29年)にアメリカでPL480法案(余剰農産物処理法)が発令となり、大量の小麦などが日本へ入るようになり、これが学校給食やキッチンカーなどを通して食の洋風化の基礎をつくっていきました。
経済面では、戦後の復興を経てから高度経済成長となり、食の分野を市場化する動きが高まり、画一化して安く大量生産する仕組みが次々にでき、家庭の食卓が変化してきました。
文化や教育面では、米食中心の和食よりも、アメリカが手本となって小麦や肉や油脂の利用を呼びかけ、その結果として、電化や大量消費・大量廃棄のスタイルが広がりました。
第2には、個人の要求からも食の外部化が求められるようになりました。高度経済成長期までの一般家庭では、男が働いて収入を得て、主婦は家事をするという性的役割りが定着していました。その後にパートやフルタイムで働く女性が多くなり、家で働く主婦の時間が少なくなったこともあって、短時間に簡単な食事をせざるをえなくなり、食の外部化を求めるようになってきました。
第3には、こうした社会の動きに対応し、食に関連する産業界も変化していきました。食品産業、小売業、外食産業では、主に食の洋風化を推進する企業が伸び、効率や利潤を追求するため、味や品質の均一化が進みました。このため設備の大規模化がすすみ、安い食品が大量に販売されるようになりましたが、それに見合った安全の確保が充分でなく、 一部では以下のような大事故を発生させています。
表5 食中毒事件
事件名 発生年 概要 患者数 死者
森永ヒ素ミルク 1955年 粉ミルクの製造中にヒ素が混入 12,159名 131名
カネミ油症 1968年 ライスオイルにPCBが混入 1,283名 28名
雪印乳業 2000年 脱脂粉乳が食中毒菌で汚染 14,849名 1名
あわせて低コストを求め、安い食材を広く海外から仕入れるとか、もしくは人件費や環境対策費の極端に安い海外における加工度を高めてきました。
第4には、子どもの飲食の嗜好に深く影響を与えているマスコミの役割りです。テレビ、ラジオ、雑誌、マンガなどにおける食品関連の番組や記事や宣伝は、お菓子類やドリンク類やダイエット食品のように、食や健康についての情報を大量に流しています。そうしてダイエットやグルメや健康についての新しいブームを次々に作り、サプリメントが国内で年間1兆円の市場となったように、企業の成長に大きく貢献しています。
6)自然環境は今
動物であるヒトが、植物や他の動物を食べて生きていくためには、自然と共生することが何よりも大切です。もしも人類が自然を破壊しつくしたときには、生物の一つであるヒトも当然のことながら生存できなくなります。
ところが食のグローバル化のもとで、森林を切り崩して牧場や畑を拡大し、海岸のマングローブを取り払って魚の養殖をしています。さらには生産地から消費地が遠く離れ、輸送のために多くの石油エネルギーなどを使い、排気ガスを大気中に放出しています。こうして増加する食糧の生産は、自然に対する負荷をこれまでになく高めています。
輸出国から輸入国に向けた農産物の量(トン)に、輸送距離(km)を掛けて算出したフード・マイレージは、貿易する農産物が輸送にどれだけのエネルギーを使っているのか、数値化して比較するためイギリスで考案されたものです。
この指標を使った農林水産省関東農政局の試算によれば、2001年の我が国のフード・マイレージは9,002億トン・kmになり、韓国は3,171億トン・km、アメリカは2,958億トン・km、イギリスは1,879億トン・km、ドイツは1,797億トン・km、フランスは1,044億トン・kmです。これだけ世界の中でもフード・マイレージの高い我が国は、環境に対する影響が他の国より大きいといえます。
フード・マイレージに似た発想にバーチャル・ウォーターがあります。生産するために必要な水を換算し、輸入品でどれだけの水を使用したのか判断します。それによると日本が1年間に輸入しているバーチャル・ウォーターは1,000億トンにもなり、国内における水資源の使用量900億トンを上回っています。
こうして海外の自然や資源に影響を与えつつ輸入された食品は、国産の食品と一緒になって人々の食べ物となりますが、それらの全てが利用されているわけではありません。2000年の農林水産省による調査では、食べ残しや廃棄した重量による食品ロス率は、世帯平均で7.7%ですが、高齢者のいない世帯では9.3%となります。外食産業の平均では5.1%ですが、宴会で15.7%となり、結婚披露宴にいたっては23.9%にもなっています。これでは食糧不足の国から我が国が、飽食と非難されても仕方ありません。
図6 食育の要素 食べ物


環境 体と心

食文化 栄養
調理
5、体験の場づくり
最終的に食育は、体験の積み重ねでその人の身についていきます。各地の事例を参考にして、新たな取り組みをすすめるヒントにすることができます。
① 農業小学校で自然に触れて
消費者のくらしを自らの手でより豊かにしようとする生協は、安心・安全な食にこだわ
り、食育にも深く関心を寄せています。そうした生協で、工夫して食育に取り組んでいる事例です。
いわて生協では、地元の農協とも協力して畑2反(たん 20アール)と水田9畝(せ 9アール)を利用して、1999年の春から農業を体験する小学校を開いています。この農業小学校のめざすものは次の4つです。
・ 自分で食べるものを種から育て、実際に食べてみる活動を行います。
・ 子どもたちの自治の力で学校を運営し、困難を乗り越えて協同の力を養います。
・ 自然の中で思いっきり遊ぶことを通して、人間や自然との交流をはかります。
・ 活動全体を通じて、命の源である農業の大切さと、それを営む人々が安心して暮らすことのできる自然環境を保全することの重要性を学びます。
こうした考えにそって約40名の子どもが、月に2回の土曜日を使い年間スケジュールをこなしています。
4月の学校びらきからスタートし、5月はじゃがいも・大豆・すいか・とうもろこしなどの作付け・田植え、6月は草取り・自然観察・マジックスクリーン、7月はそば種まき・えんどう収穫、8月は川遊び・花火・すいか収穫、9月は枝豆・ジャガイモ収穫・稲刈り
10月は農業祭(焼肉食べ放題)、11月は豆腐・みそ作り・紙すき、12月は餅つき、 1月はスキー教室、2月はそば打ち・ウインナー作り、そして3月は学校しまいの会です。
ある年のジャガイモの収穫は、あいにくの雨になってしまい、カッパや長靴での作業となって子どもたちは苦労しました。参加した子どもの感想文です。
「きょうのジャガイモほりはたいへんだったけど、ほってみたら、ありとかコオロギとかが、びっくりしてひなんしていました。きょうは雨だったけど、雨の日にもいいことがあってよかった」
「きょうのジャガイモほりで、のうぎょうする人は、こんなにくろうしていることがわかりました。かんしゃしよう」
収穫した多くのジャガイモは、子どもたちのお土産となりました。
「お父さんが、早くジャガイモを食べたいと言っていたので、帰ったら食べさせたいです」
蒸かしただけのジャガイモでもお父さんが、「美味しい!」と喜んでくれれば、子どもにとってこれほど嬉しいことはありません。きっとお母さんも、そのジャガイモを使っていくつかの料理を作り、夕食の食卓を飾ってくれたことでしょう。
② 医療専門の生協では
全国の40の都府県に116の医療生協があり、組合員である240万世帯の健康を守っています。
その1つである愛知県の南医療生協では、小児科の専門知識を活かして次のような小・中学生の健康習慣を提案し、話し合いの場を作るなどしてその普及に努めています。
1)「眠りと目覚めのリズム」を作り、適正な睡眠時間をとろう。
2)お酒は飲みません、タバコは吸いません。
3)すすんで家事の分担をしよう。
4)運動する習慣をつけて健康的な遊びをたくさんしよう。
5)バランスのよい食事を規則正しくとろう。
6)目を大切にしよう。
7)よくかんで、よい歯ならびとかむ力をつけよう。
グングン成長していく子どもの健康を守る日常の習慣づくりを、医療生協では応援しています。
③ 自分たちで植えた野菜でカレーを
千葉県のエルコープでは、親子で育てた野菜を使ってカレーを作ろうと、次のようなチラシで呼び掛けました。
「にんじん種まき・じゃがいも植付け&お餅つき大会!!
にんじんとじゃがいもを植えて収穫時にカレーを作ってみませんか。
昨年の玉ねぎ植付けに引き続き、和郷園でにんじんとじゃがいもを植えて、6月にはみんなで収穫してカレーを作ります。『あの時植えた玉ねぎはどうなっているかな?』『にんじんとじゃがいもも植えてカレーを食べるぞ』という方、皆さんの参加をお待ちしています!!」
他にもエルコープでは、北海道は野付(のつけ)にある首都圏コープ事業連合の森造りにも組合員や職員が参加し、「森は海の恋人」のキャッチフレーズで植林をして「ふーどの森」を育て、ホタテやほっき貝や秋鮭の成長に貢献しています。
少しでも自分たちで育てた食材を使った料理が出れば、これほど感激して食べることはないでしょう。家族や友だちが美味しく味わってくれればなおさらです。
④ 子どもの食や健康を応援する講座
埼玉県にあるさいたまコープでは、「お父さんと一緒にうどんをつくろう」を開催し、10家族36人が参加しました。父親と子どもが協力してボールで粉と水を練り、ビニールの袋に入れて足で踏みます。すぐに手助けをするお母さんは、別室で砥石を使っての包丁研ぎです。
お父さんの感想です。
「はじめはどんな味のうどんができるのか心配でしたが、みんなで力を合わせて作ったうどんの味は最高です。家庭でもぜひまた作ってみたいものです」
お母さんの感想です。
「生まれてから恥ずかしながら一度も研いだことはありませんでしたが、思ったより簡単であんなに切れるようになるなんて、調理が楽しくなるのでこれから度々研ぎたいと思います」
子どもの感想です。
「不安なところもありましたが、できあがったうどんは、とてもこしがあっておいしかったです」
父親も含め家族全員で、有意義な体験をしています。
⑤ ミールクーポンで大学生の食を応援
全国で211の大学に生協があり、学生を中心として141万人の組合員がいます。その多くの大学生協では、食堂や喫茶や食品売場などの施設を運営し、組合員へ日々の食事や飲み物を提供しています。
ところで収入の少ない学生にとって、節約したい筆頭はいつも食費です。カップラーメンやオニギリなどで食事をすませるなどして、食べる質を落としてもとにかく腹を満たし、さらにはやむなく欠食していることも珍しくありません。
そうした学生に、安心して食事をしてもらうためいくつかの大学生協では、プリペイカードやICチップを使って独自のミールクーポンを発行し、親に購入してもらって子どもに渡すようにしています。
福島大学生協では、クーポンを利用したときのレシートを回収し、保護者に食事内容や栄養素のバランスを表示した食事履歴を送って好評です。
山口大学生協では、欠食の多い朝の対策として、朝食のみに利用できるミールクーポンを発行しています。
熊本大生協や佐賀大生協などでは、年間で7万5000円から15万円のミールクーポンを発行し、1カ月の食事の記録がレポートになって親元に送付されています。
こうしたミールクーポンの利用により、学生の安定した食事を大学生協では応援しています。
⑥ あったかい乳搾り
コープながのでは、1泊2日の子ども酪農体験や親子酪農体験ツアーを行っています。
それぞれに参加した子どもたちの感想文です。
「アイスクリーム作りとバター作りは、やってみて楽しかったです。アイスはとってもおいしく、バターはとってもクラッカーとあっておいしかったです。アイスは、家でもできたら作ってみたいと思います。
牛のせわは楽しかったし、子牛はとってもかわいかったです。それに大きな音をたてながらほしくさをおくと、牛さんがにげちゃってちょっとかわいそうだったので、これからはしずかにやります。楽しい思い出になりました」(小学校6年 女の子)
「ぼくじょうのうしのちちをしぼったら、やわらかくて、あたたかくて、ぼくはこのことをぜったいにわすれない」(7歳 男の子)
参加した子どもたちは、牛乳を飲む度に牧場での体験を思い出すことでしょう。
⑦ 高齢者の食事応援
京都生協の「くらしの助け合いの会」では、1989年から高齢者向けの食事会を行なっています。
定刻の11時前から、高齢者の方たちが次々に集まってきます。顔なじみの方同士は、1カ月ぶりの再会を喜び、雑談するとかお互いの笑みを交わしていました。この日は早めのクリスマス会も兼ね、アルコール類もあるので、会費はいつもより割高の1人2,000円でした。当日の参加は42名で、男性は1名のみでした。
開会のあいさつの後、プリントを見つつ、「冬景色」や「旅愁」を歌い全体が和やかになります。すでにテーブルの上には、握り寿司、オードブルの詰め合わせ、大根と厚揚げの煮物、柿入りの蕪(かぶら)のなます、ほうれん草の胡麻和え、ケーキとみかんが並んでいました。寿司とオードブルは、近くにある生協の店舗から購入したもので、それ以外の料理はボランティアの人達による手作りです。大根と厚揚げは、米のとぎ汁を使い、圧力鍋を利用して柔らかくしてから味をなじませていました。
テーブルに出ているワインと日本酒について、選んだ酒屋さんによる紹介がありました。地域にある12の商店で作るクラスタス・クラブのメンバーです。ちなみにこのクラブは、生協の店舗と地域における共存を目的に、左京民主商工会と京都生協左京支部との間で事業提携を結んでできた生協協力店会の愛称です。
アルコールも入り、楽しい歓談が続きます。最後に、会のニュースや次回の案内と、赤いリボンのついたミニワインが、各自にプレゼントされて楽しい食事会は終わりました。
⑧ 親子でエコクッキング
コープかごしまでは、夏休みを利用して親子エコクッキングを開きました。あるとき12組の親子28名が参加し、環境を考えつつカレーライスとフルーツポンチを作りました。
洗った野菜は、重量を少なくするためザルで乾かして皮をむきます。ただし、無農薬で育てたニンジンは、タワシでよくこすってそのまま使います。ご飯には無洗米を使い、参加者で食べることのできる量だけとします。生ゴミは、参加者毎に計って発表し、その後は堆肥にして畑に返しました。
美味しく食べた後は、汚れの少ない容器などから洗い、またお皿に付いたカレーはまず紙でふいてから洗うなどして、節水にも心がけました。
参加した子どもの感想です。
「ほうちょうがじょうずにつかえたのでたのしかった。ごみがすくなかったからすごいとおもった」
こうしたエコクッキングの取り組みは、独自のパンフレットにまとめて普及をすすめています。
⑨ 100名の「あぐりスクール」
1998年から食と農業をリンクさせた食農教育という言い方がはじまり、各地で取り組みがすすんでいます。食育のひとつとみてよいでしょう。
長野県にあるJA北信州みゆきが開いた「あぐりスクール」では、子どもを対象にして年間13回の学びの場を提供しています。
まずは始業式で、100名全員に揃いのリュックサックと帽子と観察ノートを与え、8つのクラス編成とクラス毎の旗作りをしました。後は、田植え・カヌー遊び・サツマイモや大豆の植付け・地域の歴史や文化の見学・「海外」研修で佐渡島へ・サツマイモの草とり・芋掘りと掘った芋で茶巾作り・稲刈りと大豆の収穫・米と大豆の脱穀・JAまつりで収穫物などの販売・豆腐作り・終業式にむけたまとめ、そして終業式です。
初めて農作業を体験した子どもたちは、いろいろな発見があって勉強になりました。同時に子どもたちに説明する先生役となったJAの職員も、農作業の意味を再確認する場となっています。
⑩ お魚、大好き
(財)広島市水産振興会は、JF(漁協)と協力して子どもを対象とした「漁業ふれあいフェスティバル」を開催しました。
その一つが小学生を含む親子60名を対象とした漁業体験です。刺し網からお魚をはずし、漁船に乗って底引き網による漁業を見学し、また全国的にも有名なカキを育てている場所を見てまわり、イカやナマコなどをお土産にもらいました。
他で子どもたちに人気のあった企画は、「お魚タッチングプール」です。アナゴ・エイ・ナマコ・タコ・小型のサメなどが泳ぎ、そこに自由参加で入った子どもたちが手づかみしようと水しぶきを上げます。泳いでいる魚に直接触ったことのない子どもがほとんどで、服が濡れても歓声を上げてお魚を追いかけていました。
会場では、直径が2mもある大鍋で作ったクロダイの味噌汁のサービスや、“ピチピチお魚市場”で新鮮なカキ・活魚・シジミ・モクズガニなどの販売もありました。
イベント全体に参加した約6,000名は、地元のお魚類の美味しさを心ゆくまで味わい、食への興味がさらに広がりました。
⑪ 自分たちで作った作物を学校給食へ
高知市内にある五台山小学校では、農家の協力を得て、5・6年生の62名が10アールの水田にもち米を植えました。当日は雨が降り、子どもたちはビニールのカッパを着ての作業となりました。
秋に育った稲をみんなで刈り取って給食の赤飯にし、お世話になった農家やJAの方たちを学校に招待して一緒に食べました。この取り組みの中から、子どもたちは思い思いにたくさんの標語を創りました。
・ 「とれたての地元の野菜は日本一」
・ 「おいしいな やっぱり地元の野菜」
・ 「給食の号令言うまで待ちきれず」
・ 「自分たちが育てたもち米の赤飯は、味はもちろん最高さ」
・ 「おいしいね 心が温かくなるお赤飯」
お腹を満たすだけでなく、心まで豊かにする食育が進んでいます。
6、生協における食育のすすめ
「生協とくらしに関するアンケート」(2003年 日生協)によれば、回答した12,996名のうち、食育についての関心は、「とても」が23%、「やや」が42%あり、両方を合わせると65%の組合員が関心を持っています。なおここでの食育は、「主に子どもの食の自立を目指して、親や地域・行政などがさまざまに支援する活動を意味しています」と解説しています。
こうした組合員の高い関心からすれば、まだ食育についての生協の取り組みは不充分と言わざるをえません。先進事例などからも学びつつ、全国の生協で食育の活動をより活発化させることが、以下の理由から重要です。
第1に、生協の目的をより高めることになります。生協の目的を明文化した生協法第1条の「国民生活の安定と生活文化の向上」において、食生活は大きな柱です。このため組合員の生活を応援する食育へのこだわりは、生協法の目的に合致し、生協の社会的な存在価値をより高めます。
第2に、事業面との相乗効果を高めることができます。取り扱い商品の中で、供給高構成比が7割台と多くの食品を扱っている生協では、単に商品を組合員に届けるだけでなく、食育の運動と食品を連携させて相乗効果をあげることができます。
第3には、全国の生協の組合員2,100万人をつなぎ、食生活における豊かな智恵や技術を交流することができれば、組合員としての喜びを高めることになります。
第4には、生協だけでなく他の組織や個人との協同の促進ができます。食育に関わる組織や個人は、JAやJFや食品メーカーなどの生産者サイドもあれば、行政や学校やNPO、そしてマスコミや学者・研究者もいます。こうした組織や人々が、協同してお互いの役割りをより発揮し、食育を効果的に展開するときに、生協は地域における1つのパイプ役になることができます。
