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路上の子どもに寄りそって
「ストリートチルドレンを考える会」の歩み
(財)生協総合研究所 研究員 西村一郎
・ 路上の子どもたち
「足場が悪いから気を付けて」
かつてメキシコの首都メキシコシティを訪ねたときのことである。案内してくれる人の声に沿って、道路から2mほどの段差を垂直に降りた。コンクリートや石の出っ張りに足や手を乗せ、そろりそろりと下っていった。降りた場所には、ペットボトルや包装紙などが散乱していた。そこから10歩ほど進むと、広い道路の下に高さが1mで間口は3mほどの空洞が広がっている。その中に背を丸くして入る。とたんにムッとした物の腐ったような異臭が鼻を突く。薄暗い中で少しすると、目がなれてきて辺りの様子がぼんやりと見えてきた。空間はかなり奥まで続いていた。その中でダンボールや布を敷くなどして、数名の子どもたちが暮らしている。
理由があって家族と別れた子どもたちは、路上で物乞いをしたり、交差点で止まった車の窓ガラスを拭いて小銭をもらうなどして、最低限の貧しい食費を手にしている。さらには空腹をまぎらわすためにも、シンナーのような薬剤の入った接着剤を使い、感覚を麻痺させているので動きが鈍い子も少なくない。
他の同じような路上で暮らす子どもたちで、バスターミナルに設置してあるコインロッカーの中で寝ている姿を見たときも驚いた。足からロッカーに入り、体をスッポリ入れてからドアを自分で閉める。日中は30℃ほどになるメキシコシティでも、夜になるとかなり冷え込む。そうした寒さからのがれるためと、大人の暴力から身を守るためだそうだ。外で寝ていると、男の子であれば酔っ払った大人から石を投げつけられることもあるし、女の子であればレイプされる危険性があるという。
路上で暮らしている子どもには、メキシコ以外の国でも出会った。フィリピンの首都のマニラでは、家族と一緒になって路上で暮らしている子どもたちをよく見かける。スラムですら暮らすことができず、押し車などに簡単な荷物を乗せて移動している家族もいる。
インドのムンバイ空港のロビーでは、両足のない子どもがカートへ腹ばいになって乗り、手で床を押しながら旅行客の間を回って施しを受けていた。すると制服姿の空港職員らしき男性がやってきて、その子を出口付近まで連れていき、カートと一緒に蹴飛ばして外に出したのにはビックリした。
中国の西安では、世界遺産の訪問先などで土産物を売る子どもたちにいつも取り囲まれて、困ったことが何度もあった。
カンボジアのアンコールワットでは、小さな竹細工を手にした小さな子どもたちが、ワン ドル、ワン ドル!」と言って群がってきた。揺するとカタカタと音の出るだけの小さな竹細工で、1つ売ることができれば1日の食費にすることができるそうだ。
イタリアやスペインなどでは、ロマ(ジプシー)と呼ばれている人々の子どもたちが、街角などで物乞いしている姿をよく見ることがある。
こうして路上で暮らし、もしくは働いている子どもたち(ストリートチルドレン)は、世界の各地で見かける。どちらかと言えば路上で働くストリート・ワーキング・チルドレンが一般的だが、ストリートチルドレンはさらに概念が広い。1979年の国際児童年に、国連がストリートチルドレンに触れたことで、社会の関心が高まった。ユニセフによると、経済的に貧しい国を中心にして世界の各地にいるストリートチルドレンは、次のような3条件の子どもたちの総称で、数千万人から1億人いると報告している。
① 貧困家庭から家計を支えるため路上で働いている。
② 家庭を離れるか失い、子どもだけで路上で暮らしている。
③ 家族全員が路上で暮らしている。
数千万人から1億人というストリートチルドレンがいれば、そうした子どもたちの自立を支援する市民団体がいくつもあって不思議ではない。実際にメキシコやフィリピンなどでは、各種のNPOがストリートチルドレンを支援しているし、我が国でも「ストリートチルドレンを考える会」がある。
・ 「ストリートチルドレンを考える会」の誕生
「ストリートチルドレンを考える会」の運営委員リーダーを勤める工藤律子さんに、都内で会った。工藤さんは、夫でフォトジャーナリストの篠田有史さんとパートナーを組み、世界のストリートチルドレンの実態を追いかけている若きジャーナリストである。
まずは「ストリートチルドレンを考える会」の設立前後の様子から聞いた。
「1990年に私が、メキシコシティでスラムをテーマにしたフィールド調査をしているときのことです。後に考える会の代表となった相川さんから、篠田の写真を見て、ぜひメキシコのストリートチルドレンについての調査をして欲しいとの依頼がありました。戦後に浮浪児と呼ばれた戦争孤児たちを身近に見てきた相川さんは、世界の各地に今も沢山いるストリートチルドレンに、無関心ではおれなかったといいます。
首都圏の人口が2000万人を越えるメキシコシティでは、当時から1万1000人ものストリートチルドレンがいるといわれていました。4歳から17歳のストリートチルドレンの大半は男の子で、また約1割の1000人は路上で暮らしています。ところでこれはあくまでも行政のデータであり、実態はその何倍もいることを後で私は知りました」
それにしてもすごい人数である。当時の工藤さんは、「メキシコの都市貧困層の生活改善運動」のテーマで修士論文を準備していた。そのため、急速に大量消費社会化が進むなかで、そこからはじき出された貧困層の人々との接点を、工藤さんは以前からもっていた。そうした知人からも、ストリートチルドレンは形を変えた社会の犠牲者であると知らされた。
「考える会」の加入案内書には、ストリートチルドレンについて以下のような説明がある。
「第三世界を中心に、世界中で、路上で働いたり、そこで寝起きして暮らす子どもたちが増えつづけています。ストリートチルドレンとよばれる子どもたちです。
路上で働くストリートチルドレンは、家計を助けるために、学校に行く時間も惜しんで、物売りや芸をしてお金をかせいでいます。なかには親が仕事をしておらず、子どもたちのかせぎだけで暮らしている家庭もあります。
路上で暮らすストリートチルドレンは、メキシコを例にとると、大半が家庭で親や親せき、きょうだいに暴力をふるわれるなど、虐待を受けた子どもたちです。彼らは、家にいられない状況に追い込まれ、自分から路上暮らしを選びました。自分を愛し、いたわってくれない家族といっしょにいることは、たまらなく辛く悲しいからです。
彼らは、辛い気持ちを忘れるためにシンナーなどのドラッグを使い、同じ境遇の仲間同士、公園やバスターミナル、廃屋などをねぐらにし、肩を寄せ合って生きています」
ストリートチルドレンの実態を知った工藤さんをはじめとして、相川さんや篠田さんたち7名が集まって、1993年12月に「ストリートチルドレンを考える会」が発足した。
工藤さんの話が続く。
「メキシコで調べたストリートチルドレンのことを、私の処女作『とんでごらん!―ストリートチルドレンとすごした夏』にまとめることができました。1993年7月のことです。その年の忘年会でのことでした。出版したらこれで終わりというのでなく、路上に生きざるをえない子どもたちの実態を広く伝え、また考えることを通して、日本をふくむ世界中の子どもたちの未来に向けて、何をすればよいのか考えるNG0を立ち上げようということになりました」
会のチラシでは、目的について以下のように説明している。
「ストリートチルドレンとは、いったいどんな子どもたちなのか。それをくわしく知り、私たちのまわりにある子どもたちの問題といっしょに考えることで、世界中の子どもが幸せにくらすには、どうしたらいいかをみんなで考えるためにつくられました」
こうした会の趣旨に賛同して年会費3000円を納めている会員は、現在約120名で、その大半が女性であり、年齢は10代から70代と幅広いとのことである。あわせて無給のボランティアによる運営委員会を設け、2006年度は20名の運営委員と2名の会計監査委員がそれぞれを分担している。この運営委員会は会計などの他に、学習・交流会/ニュースレター&サポーターフレンド・プログラム/ホームページ/すごろく/海外交流などの担当があり、小さい組織にもかかわらず、国際交流など多彩な活動を積極的に展開している。なお、サポーターフレンド・プログラムとは、メキシコのストリートチルドレンを支援するNGO「カサ・ダヤ」に暮らすシングルマザーの少女と、日本人がメールで交流するプログラムをさす。
・ ストリートチルドレンに出会うメキシコツアー
毎年のように会では、メキシコへのツアーを実施している。アメリカ経由の10日の旅では、次のようなストリートチルドレンを支援しているNGOを訪ね、スタッフや路上の子どもたちや、路上から抜けだし自立を目指そうと努力する子どもたちと交流している。
①「プロ・ニーニョス・デ・ラ・カジェ」
ストリートチルドレンの持つ可能性を伸ばして自尊心を取り戻し、子どもが自らの意志で路上生活から抜け出し、新しい生活をはじめるように支援している団体である。専門のスタッフであるストリートエデュケイターが、路上で暮らす子どもたちを訪ね、様々なレクレーションやスポーツなどで信頼関係をむすび、自立につながるデイセンターへと誘う。基礎的な生活習慣を身に付けるデイセンターの運営や、さらに定住を希望する子どもには、施設や職や住居を探し、家族とのコンタクトなどを手伝う。
②「カサ・ダヤ」
路上や貧困家庭で性的虐待を受けるとか、無防備なセックスをしたため、幼くして子どもを産み育てざるをえなくなった少女と、その子が自立するまでを支える団体である。具体的な支援内容としては、衣食住と医療、各種のセミナー、学校教育や職業教育、リハビリ、健全な生活習慣や食習慣の指導、保育と育児支援などがある。
③「マチンクエパ」
スラムの子どもたちが、地域で健やかに成長し、家庭で問題を抱えた場合も、路上に出ることなく、自分と地域の支えで解決できる力を身につけられるように、スラムの青少年対象のサーカス教室を開いている。教室に参加することを通して、子どもたちは自信や広い人間関係を身につけ、あらゆる問題の解決方法と力を得る。親たちも地域での人間関係や助け合いの精神を豊かにすることができる。
④「カサ・アリアンサ・メヒコ」
ストリートチルドレンの各自が成長するため、衣食などの基礎的なサービスや医療、心理ケア、学校教育、人生相談などをしている。そのために、100名に対応できる避難所を運営し、その中で次の自立へ向けてステップを踏んだ子どもたちがたどり着くグループ(定住)ホームも運営している。またドラッグ依存症やエイズ患者へのケアなどもおこなっている。
こうした現場を実際に自分の足で訪ね、同じ空気や匂いを吸いながら、日本ではできない貴重な体験をしたり、もしくは現実を自分の目で見ることができる。参加者の感想文から、いくつか拾ってみる。
「『ストリートチルドレンは自分に関係ない』と言えるような人は、この世界で1人もいないと思います。そして『彼らに何かしてあげたくても何もできない』人もきっといないでしょう。一人からでも、必ず何かしらできることはあるはずです。本当に彼らを守りたかったら、受け身でいないで積極的に自分から行動して欲しい。実際に自分で行動をはじめて、今では多くの子どもたちを守り、支援している人も沢山います。彼らがよりよい生活をできるように、同じ人間として一緒に愛にあふれた未来を作りあげたい。(女子高校生)」
「メキシコの子どもたちに出会うことで、ストリートチルドレンの問題が他人事ではないと実感した。ツアーへ行く前、テレビや本を通してストリートチルドレンについて認識していたが、別世界の存在としか感じていなかった。なんて悲惨な子どもたちなんだろう、ひどい世の中だと怒りはしたけれど、どこか他人事のような自分がいた。しかし、出会ったみんなはいつの間にか、私にとって大切な存在となっていた。大切な人のために何ができるかを考えるのは当然だろう。(女子大生)」
「ストリートチルドレンの問題は、すぐには解決なんてあり得ないし、がんばっても数は減るどころか増えていってしまうかもしれない。根本にある大きな原因は、愛情の欠如かグローバリゼーションか人間のエゴか。正直お手上げ状態で何を書いていいのか本当に苦戦している。でもどうかこの世界をあきらめないで見過ごさない自分でいたい。地球人の一人として、メキシコの彼らを他人事で受け止めて生きていく人間にならないように、私もできる限り前向きに明日へ取り組んでいきたい」
それぞれが貴重な体験を通して、ストリートチルドレンの問題を日本で暮らす自分に引きつけている。
・ 講演会などの開催
一人でも多くの人にストリートチルドレンの実態を知ってもらうため、各種の講演会などを「考える会」では企画し実行している。
2005年には、メキシコからNGO「プロ・ニーニョス・デ・ラ・カジェ」のスタッフであるナチョさんを招き、東京、大阪、広島において合計6カ所で講演会を開催している。メキシコにおけるストリートチルドレンの状況と、NGO「プロ・ニーニョス」の活動を簡単に紹介したレジメを配布し、現地の活動内容を写したビデオの上映や、工藤さんとナチョさんの対話形式の話もあれば、実際にストリートチルドレンを相手にしておこなっている遊びやゲームも、会場の参加者と一緒に演じている。このため講演会という堅いものではなく、カジュアルな雰囲気の中でストリートチルドレンの問題を身近に感じてもらうように工夫していた。
各会場に参加した人たちの感想文の一部である。
「ナチョさんの講演は大変興味深いものでした。皆、ナチョさんの話されることにどんどんひかれていっている様子が伝わってきました。特にストリートチルドレンの子どもたちを前に、NGO職員としてどう対応するか実際に演じてみる箇所は、印象に強く残っています。演技に参加した学生のぎこちないドギマギした様子を見ながら、『私だったらどうするだろう、やっぱりどこか固くなってしまうのではないか』などと思い、現地へ行って子どもたちに触れ合いたいという思いを強くしました。(女子学生)」
「子どもたちにとって路上が魅力的である、とナチョさんの言ったことが衝撃的である。どういうことだ?自分勝手に自由に暮らすことができ、支援してくれる人や団体や協会なども沢山あり、路上にいることはより自由で支援もしてもらえるという訳である。つらい家庭内に比べれば、一見路上はよく見えるのであろう。しかし、甘い罠に誘われて子どもたちは家を出ていくが、現実の行き先は地獄である。(男子学生)」
ストリートチルドレンの支援に直接関わっているスタッフから話を聞くことにより、参加者は新しい気付きをしている。
2005年に愛知県で開催となった愛・地球博においては、ストリートチルドレン芸術祭のオープニングイベントとして、「考える会」のメンバー1名を含む若者グループが、広い舞台を使った「ストリートチルドレン体験すごろく」を実施した。原案となったのは、「考える会」が小・中学校における総合学習の授業などで活用してもらうため製作中のゲームである。
3人がプレイヤーとなり、サイコロの替わりにカードを引き、そのカードに書いてある内容にそってマスを進めていく。カードには、ストリートチルドレンが路上で経験することをいくつも書いてあり、途中では支援するための施設への入り口もあり、最後のゴールに立てば新たな人生へのスタートとなる。こうして路上での暮らしや働きを模擬体験ができるようになっており、人生ゲームのストリートチルドレン版といった内容である。
3人の若者のプレイヤーはストリートチルドレンになりきり、手助けするストリートエデュケイターはウクレレを弾きつつ登場し、家庭に戻ることになった子ども役を母親役が抱きしめるなどの寸劇も入れ、観客の関心を高めるための工夫をしていた。
・ 通信「ブエラ」の発行
「考える会」では、設立から毎月1回の割合で、通信「ブエラ」を発行している。ちなみにブエラ(Vuela)とは、スペイン語で「飛んでごらん」という意味だそうだ。ストリートチルドレンが路上から抜け出し、家庭や施設などで暮らすようになるため飛躍する願いを込めている。
最新のNO135号は2006年4月7日発行で、B5版サイズのニュースは16ページもあり、次のような記事で埋まっている。
① メキシコの子どもたちのためのチャリティ・トーク&ライブ
② フィリピン・ミンダナオ取材記
③ 連載「サポーターフレンド・プログラムに参加して~それぞれの思い~」
④ カンボジア発 増え続ける子どもに対するレイプ
⑤ 会員限定学習会「すごろく体験とツアービデオ試写会」
よくこれだけの内容と分量で、それも定期的に発行しているものだと感心する。その一部は考える会のホームページ(http://www.netlaputa.ne.jp/~child_fn/)にも載せてあり、「ストリートチルドレンを考える会」の活動の紹介や普及に大きな役割を発揮している。
・ 知り合うことが出発点
最後に工藤さんから、ストリートチルドレンを支援する活動の意味や、一般の人々へのメッセージなどを話してもらった。
「路上で暮らし働く子どもたちと出会い、お互いをよく知り合うことによって、理解を生み、心を動かし、そして人の輪を作っていきます。こうしたことが、『ストリートチルドレンを考える会』のようなNG0や、さらには社会を動かすグローバルな力になっていきます。
確かに日本にメキシコなどのようなストリートチルドレンはいませんが、いじめや虐待などによって、深く悩み苦しんでいる子どもたちは沢山いますし、その数は残念ながら増えています。社会のゆがみの犠牲となっている点では、根っこが同じです。ストリートチルドレンと同じであったかつての戦争孤児は、今は日本にいませんが、かつて彼らで一杯だった児童養護施設は、家庭での虐待を逃れてきた子どもたちであふれています。
形は違っても子どもたちの心の痛みに気付き、そうした問題の背景について知り、改善策を考えて可能な範囲で行動に移すことが、私たち一人ひとりに求められているのではないでしょうか」
経済や軍事のグローバル化が進み、新たな貧困が拡大する中で、「ストリートチルドレンを考える会」が取り組んでいるようなNGOのグローバル化が、人間らしい社会づくりのためにもますます求められている。
連絡先
「ストリートチルドレンを考える会」
〒171-0033 東京都豊島区高田3-3-22 ジュラ出版局内
TEL 03-3200-7795 FAX 03-3200-7729
