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(財)生協総合研究所 研究員 西村 一郎
・ 市民風車の完成
「はまなすゆれる 北の丘に 白い 羽がまわる
波と遊ぶ 子供の笑顔 風車よ まわれ
カモメが飛ぶ 北の空に 白い 羽がまわる
夢と希望 のせてまわる 風車よ まわれ・・・」
北海道の北端に位置する浜頓別(はまとんべつ)町に、高さが60mの柱に長さ27mもの羽3枚のまわる大きな風車が完成したのは、2001年9月のことです。全体が白い125tもあるデンマーク製で、6月の中旬に2カ月の船旅で北海道に到着し、それから約半月ほどかかって、すでに準備してあったコンクリートの基礎に据え付けとなりました。
この風車は、NPO法人北海道グリーンファンドが中心となって、長年の市民の夢が実現したもので、この1機で1000kwを発電する能力があり、約900世帯の電力を賄うことができ、地元浜頓別町の約半分の家庭を賄うことが可能です。
冒頭の歌詞は、このグリーンファンドの風車を歌った「風よふけ」の一節で、9月15日に開催となったオープニングの式典において披露されました。
「市民風車・オープニング祭inはまとんべつ」と題したそのイベントは、北海道の方はもちろんのこと、遠くは九州からも支援者が集まり、総勢150名によって盛大に行なわれました。
鹿児島から飛んできた70歳の男性は、子どものころから風車に特別の愛着があり、巨大な風車を見上げて「これこそ男のロマン」と喜んでいました。この運転開始式や祝賀会には、地元の町長さんや町議会の議長さんも参加されていますので、地域からも期待されていることがよくわかります。
・ 北海道グリーンファンドとは
北海道グリーンファンドは、原発に頼らないでかつ地球温暖化もない社会をすすめるためのグリーン電気料金制度と、当面は風車による自然エネルギーを使った「市民共同発電所づくり」を大きな柱としています。
このグリーン電気料金制度とは、風車などによる自然エネルギーを作るための基金として、電力会社へ払わなくてはいけない金額に5%上乗せした額を、グリーンファンドが消費者の口座からまず引き落とし、次にまとめた金額を電力会社へ支払い、差額の5%分を集めます。
こうした日本では最初のシステムを作った北海道グリーンファンドは、会員を呼びかけるリーフレットで以下のようにうたっています。
・北海道グリーンファンドが目指すもの
『地球温暖化も困るし、原発が増えるのも不安。気軽に無理なく環境にやさしい何かができたら・・・』。こんな思いでいる人たちは、大勢いるのではないでしょうか。
あなたもちょっとだけ節電し、節約したわずかな電気料金を、自然エネルギー普及のための基金に寄付しませんか?
北海道グリーンファンドは、誰でも気軽に無理なく地球環境保全に貢献できる、グリーン電気料金制度と、風力や太陽光などの自然エネルギー普及のための発電所づくりに取り組むNPO(非営利組織)です。
私たちはそうした実践をとおして、温暖化も原子力もない未来のための、社会制度づくりを目指します。
・市民共同の発電所をつくろう!
図1
私たちは、北海道の大地を吹き抜ける「風」とふりそそぐ「太陽」を資源に、「未来の環境」と「地域の経済」をつくり出します。
つまり、市民が節約した電気料金を基金として、市民共同の発電所をつくろうという計画です。市民共同の発電所でつくられた電気を電力会社に売電することで、私たちが使う電気に占めるグリーンな電気の割合を増やすとともに、売電で得た収入を次の発電所づくりの資金にします」
こうして呼びかけている会員は、次の4種類があります。
1,「グリーン電気料金制度」に参加登録する個人(料率5%)
2,事業所として「グリーン電気料金制度」に参加登録する団体及び法人(料率任意)
3,年間1口5千円のファンドを拠出する個人
4,年間1口1万円のファンドを拠出する団体及び法人
北海道に住んでいる人には1の会員になってくれるように呼びかけ、現在は1200名が参加しています。
・ 北海道グリーンファンドの設立
理事長の杉山さかえさんから話を聞きました。
「世界中をゆるがした1986年のチェルノブイリにおける原発の事故で、たくさんの食品が放射能に汚染されたことをきっかけにし、北海道の生活クラブ生協として脱原発運動に取り組んできました。安全と思っていた食品が汚染され、国や大企業に任せておけば良いという考えが通用しなくなりました。それも反対するだけの告発型でなく、実行が可能な対策を出す提案型の運動を大切にしてきました。
それまでの食品における添加物反対運動では、独自の安全な食品を私たちの力で開発してきましたが、電気については私たちの対応できる範囲を大きくこえているものだと考えていたものです。
でも電気事業に私たちが関わることのできる道はあったのです」
東北大学の長谷川教授の講演会で聞いた、アメリカはカリフォルニア州にあるサクラメント電力公社のソーラーパイオニア・プログラムにヒントを得ました。そこのソーラパイオニア・プログラムは、原発に反対し、そのかわりに自然エネルギーを希望する人々が、自宅の屋根をソーラ発電用に提供し、さらに毎月4ドルを寄付するという制度です。
ここからヒントを得て、先にみたような独自のシステムによるグリーン電気料金制度が生まれました。こうして北海道の生活クラブ生協で誕生したこの制度は、より多くの人々の参加を可能にするためNPO法人・北海道グリーンファンドへと引き継がれました。
ところでこの制度を実現させるためには、北海道電力会社の協力がなくては成立しません。300万戸もの全道の契約者の中から、こちらの指定する人のデーターを抜き出して提供してくれることが必要です。
それまで市民と電力会社は、原発問題などでどちらかというと敵対する関係でしたが、北海道電力も市民とのコラボレーションを考えているときでもあり、杉山さんたちの考える内容で協力関係ができました。こうして月々の電気料に5%上乗せした金額を、賛同者の口座から自動引き落とすという、一番簡単な仕組みが完成しました。
しかし、もちろん当初から完全な仕組みができあがっていたわけではありません。たとえば電力メーターの検針日が地域によって異なるため、口座から引き落とす日がずれます。このためグリーンファンドが料金の立て替えをしなくてはならない期間があり、資金繰りのうえで課題を残していましたが、約半年で負担しなくて良い仕組みに改善しました。
・ 運動を広げるため
制度はできましたが、これを育て発展させなくてはなりません。そこでグリーンファンドでは、この運動に対する賛同者の輪をさらに広げるため、暮らしの見直しを呼びかけました。そのころの取り組みを杉山理事長から聞きます。
「自然エネルギーのためだからと言って、いくらでも電気を使っていいわけではありません。むしろ、現状より5%の節約を訴えました。電気器具本体のスイッチを切っても、コンセントからその器具までは電気が流れ、こうした待機電力は、全体の10から15%にもなると言われています。
だからいつもリモコンなどで本体のスイッチを切っている家庭では、コンセントをこまめに抜くだけでも、10%近い節電に充分なるし、全国の家庭で実施すればたいへんな量の電力の節約になります」
この5%の上乗せには、次のような思いが込められています。
第一に、定額会費でなく月々の消費量に応じた定率会費とすることによって、ヨーロッパやアメリカで広がるグリーン電気や環境税のように、各自が消費する量に応じて費用負担を決めるという考えです。
第二には、待機電気を節約するなどすれば、上乗せする5%の金額は家計の負担になることはありませんので、あまり無理をしなくても運動理念に賛同すれば誰でも参加できることです。
ところで待機電力ですが、実際に驚くほどの数字になります。北海道グリーンファンドが主催した連続講座の資料によれば、全国4500万世帯が年間で使っていると想定されるテレビ、ビデオ、電子レンジの待機電力は62億kwとなり、原発1基とほぼ同じです。
また北海道グリーンファンドでは、こうした考えを日常の家庭生活の中で実践してもらうために、G―FILEと題した「環境家計簿」、「誰でもできる消費電力削減」や「電球チェンジで省エネチャレンジ」といったパンフレットなどを発行し、生活者の啓蒙にも力を注いでいます。
この冊子では、主な家庭用電気製品ごとに節電の案内をし、さらには節約調理のすすめや地球のことを考えた冷蔵庫選びのすすめまでしています。
・ 市民共同発電所づくり
グリーンファンドの考え方を広げつつ、実際に風車をどこに建設するかについても簡単に決まったわけではありません。杉山さんから当時の苦労を聞きました。
「風車を建てるにしても、どの場所でも良いわけはありません。年間を通して、一定の風が吹いていなければ事業として成り立ちませんので、最低1年間は風力の測定が必要です。その点では、トーメンパワージャパンという専門会社の協力があったことが幸いでした。そのトーメンさんが道内の各地で風を調べ、浜頓別で3基を建てる計画ができ、その横にどうですかと紹介してくれました。
同時に北海道電力が、15万kwを上限にしてそれ以上は風力電気を買わないことになっており、その枠の中で私たちの事業できるタイムリミットが迫っていました。杭の一本でも立てないとしばらくチャンスが来ないので、不安はありましたが思い切って建設の判断をしたのです」
2000年11月の理事会でのことです。これで風車を建設する計画はまとまったわけですが、全体の投資は2億円となるため、その資金集めが大きな課題となりました。その当時は、会員の寄付であるグリーンファンドが約1000万円あるだけでした。国の補助金を含めて金集めに忙しくなったころ、6000万円の自己資金があれば融資するとの話が、ある金融機関から出ました。
さっそく理事会のメンバーを中心にして、一口50万円で出資を呼びかけます。特に独身者には、当面使う予定のないお金を、3口や4口と出資してほしいという話がありました。杉山さんの話が続きます。
「もちろん出資は会員やそのまわりの方にもお願いし、12月から翌月の1月で9000万円ものお金が集まりました。これまでの生協の枠を大きくこえた結果です。たとえば北海道平和運動フォーラムという組織があります。労働運動の全国的な再編のとき、連合に持っていくことのできなかった社会運動を、ここ北海道では独自の組織をつくって残したのです。
この平和運動フォーラムでは、脱原発をきちんと今もかかげていますので、原発反対の集会などがあると、ここから組織動員して数百人はいつも集まります。ここの仲間からは、1500万円もの私たちに対するカンパや出資金をいただき、私たちにとって大きな励ましとなりました」
ところでNPO法人は、出資を集めることが法律との関係でできません。そこで北海道グリーンファンドとは別に、資本金2500万円で(株)北海道市民風力発電を設立し、この株式会社を中心に資金集めをしました。
その資金ですが、1億円が集まったころにマスコミにも取り上げられたこともあり、全国各地からの出資や寄付などが届くようになり、最終的には1億5650万円にもなりました。足りない金額については、地元の金融機関からの借り入れで話がつき、これで資金の確保ができました。
そうした運動の広がりについて杉山さんは話してくれました。
「2000年の夏には、多くの道民が反対するなかで、納得する理由を示さずに、泊原発3号機の設置を知事や道議会が許可していましたので、不満を持っている方はたくさんいました。
また北海道以外でも少なくない人たちが、環境のことをよく考えないわが国のエネルギー政策を心配しています。そうした人たちが、『自分たちの手で電気を作ろう』と集まってくれたわけです。目的が明らかで経営もしっかりしていれば、将来の社会のために手持ちのお金を有効に使いたいと考えている人は、各地にたくさんいることがわかりました。集まったお金の90%は会員の方からでして、自分の夢を実現させることに共鳴しています」
今回建てた風車の法定耐用年数は17年で、その間は出資者へ配当を予定しています。当初の計画では、借入金が大きくて収支はトントンでしたが、予想を大きく上回る出資金が集まったため、借り入れが少なくて利益が増え、配当金は2.2%を出せる見通しです。
・ 反響
こうした北海道グリーンファンドの取り組みが、いろいろな方面から注目されています。九州のある生協からは、種子島に風車を建てたいというプランがあって問い合わせがありました。
またREPP(自然エネルギー推進市民フォーラム)が主催する「グリーン電力の交流会」では、報告者の一人になっています。
そうした反響のひとつに、朝日新聞社が創刊120年を記念して創設した「明日への環境賞」の受賞があります。2001年4月のことで、5つある団体の最初の組織として高く評価されています。
その受賞を報じた朝日新聞の全国版には、「自然と共生活動多彩に」と題して、北海道グリーンファンドの紹介記事には、次のような一文があります。
「 風車を増やしていけるかどうかは、最初の風車がビジネスとして成功できるかにかかっている。
だが、会員は心配していない。グリーンファンドの取り組みは、日本各地の市民を動かしつつある」
実際にそうで、2000年の10月から、全国の10電力会社がスタートさせたグリーン電力基金づくりにも影響を与えています。地域によって金額に差があるものの、北海道であれば家庭で月に500円の基金を出せば、同じ額を北海道電力会社も出して、それを自然エネルギーの普及促進に役立てる制度です。地域で電気を独占している巨大企業の電力会社が、北海道グリーンファンドのような小さなNPOの理念に学んだ結果とも言えます。
・ 今後の課題
杉山さんにこれからのことを語っていただきました。
「風車はあくまでも1つの手段ですので、バイオマスや太陽光などの利用も視野に入れて、自然エネルギーの利用を広げたいものです。太陽パネルは、児童館などのように部分的な利用に適していますので、条件に応じて使い分けが必要です。
寒い北海道では、木質のバイオマスも効果的で、そのため木質ペレットを昔の石炭のように流通させることができないかとも考えています。
2号機の風車については、2002年の秋以降に、北海道電力が次のメニューを出してきますので、それを見て考えるつもりです。NEDO(新エネルギー産業技術総合開発機構)の半額補助もありますので、風車などを造りやすい環境がすすんでいます」
他にも自然エネルギーを利用する条件は、さらに拡大すると予想されています。たとえばグリーン電気証書の発行です。メーカーが社会的なイメージを高めるため、自然エネルギーで作った電気を使っていることを証明するもので、エコマークの電気版とも言えるもので、NPOの新しい役割を発揮できる場になる可能性もあります。
それでも賛同する会員を広げるためには、いろいろな工夫が必要で、杉山さんも大きな課題だと言っています。
「今生活クラブの組合員1万4000名の中で、グリーンファンドの会員は800名で6%ほどです。グリーンファンドの主旨には賛成しても、毎月の寄付となると抵抗があるようです。地震や火山などによる災害には募金を出しますが、自分がお金を出して市民運動を育てるまでには残念ながらなっていません。
はやめに環境負荷の少ないエネルギーにしていかないと、取り返しのつかない事態になります。そのため原発を止めて、その分を自然エネルギーに変えていくことです。もちろん100%は無理にしても、地域によって組み合わせをすれば、自然エネルギーの大きな利用は可能です」
昨年は、自宅の屋根に太陽パネルをのせた杉山さんです。北の大地の一角で、可能なことからエネルギー問題の改善にむけた実践がすすんでいます。
連絡先 特定非営利活動法人 北海道グリーンファンド
理事長 杉山さかえ
〒060-0004 札幌市中央区北4条西12丁目ほくろうビル4階
℡011-280-1870
http://www.h-greenfund.jp/
